50話 月世界2
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れたんだな。それぐらい張り替えればいいだろうが……それは、普通のハープだったらの話か。これはまた何かやらされるな?
「海の記憶を再現するにはこのハープでは足りないようですね。……しかし、私の手元にはこれを越える楽器はありませんし……いや、月影のハープならば可能かもしれませんがね……」
「それを探してきたら、船を動かすことは出来るのですか?」
「海の記憶を再現することが出来れば間違いなく船は使えますよ」
「そうですか。……さて、気は乗らないけどアスカンタ行きが決まったね」
音色に聞き惚れることもなく、最初から考えこむように腕を組んで立っていたトウカだったが、イシュマウリからそれだけ聞くとすぐにエルトに声をかけた。
おいおい……その楽器の名前を聞いただけで所在地なんか分かるものなのか?よほど有名なものならともかくだな……ん、そういえばトウカは一般庶民ではなく貴族だったか。それで知っていたのか……。
「月影のハープ。アスカンタ王国の国宝。普通なら貸してもらうとか、ましてや貰うとか絶対に無理だけど……幸いな事にパヴァン王には融通してもらえそうだし」
「そうと決まれば出発じゃ!」
「御意に」
凄まじい勢いで次の目的地が決まり、さっさとエルトがルーラを唱える。ふと、飛び立つ寸前に見回してみたが、いつの間にやらイシュマウリは姿を消していた。見上げた夜空で輝いていたはずの月も雲に隠れていた。
・・・・
「……まあ、何にしても夜に王城に突撃するとかいうことは出来ないわけで……」
「ここは夜もお城が開いているから、出来なくもないんだけど、失礼だよね……」
「……さっさと休んでこい。明日には朗報を待っておるぞ」
「はっ」
当然だけど、アスカンタに着いても夜空は黒いビロードのように広がっているわけだよね。……流石に疲れてしまったから、今から大人しく就寝させてもらおう……。
重いまぶたを無理やりこじ開けながら、前を歩くエルトに着いて行き、石畳の上で足を引きずった。……ちょっと今日は誤魔化しきれるか分からないから、自分のお金で一人部屋の鍵を獲得しておいた。特に疑問を持つこともないエルトは、単に私がパーティの財布の負担を減らすためにやったのかと勘違いしたみたいだ。
「じゃあ、明日の朝ね」
「うん……」
「おやすみなさい」
「じゃあな」
「おやすみなさいでがす」
おざなりな挨拶もそこそこに、私は部屋に入ってすぐに鍵を閉めると、鎖帷子をもどかしく脱ぎ捨ててベッドに倒れ込んだ。晩御飯?そんなの、食べるより睡眠だよ……朝ごはんを沢山食べればいいでしょ……どうせもう身長伸びないし……。
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