49話 奇跡
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私に本を差し出した。……エルトがそう言うんならそうなんだろうね。題名すら確認することなく曖昧に頷いた。もう頭が痛いし疲れちゃったんだ。ちらりと船の絵を確認したからそれでいいよ。もう何も読みたくないし、今は戦いたくもない。
「……それ読めばいいじゃない」
「うん、って、どうしたのさ?」
「疲れたから、もう限界だから……」
思わずなりふり構わず座り込んで脱力する。鼻をくすぐる埃にくしゃみして、腫れぼったく感じる目を閉じた。
「大丈夫か?」
「見ての通り、文官より武官向きなもんでね……」
「少し休んでろよ」
ククールが優しい。何時も優しいけどさ。ああ、本物のイケメンって皆優しいよね。エルトとかヤンガスも優しいもんね。ということはゼシカも優しいからここは優しい人ばっかり?陛下も姫様も素晴らしい人柄の御方だし……なるほど、私が一番のロクデナシ?
お言葉に甘えてぐでっと……する暇があったら船について調べなきゃいけないよね。皆頑張ってるんだし、私も頑張らなきゃいけないよね。
埃まみれの手袋から水筒を出して、一気に煽った。中身はそこらの小川の水だ。よし、元気が出たかな。手袋、払いたいけどここじゃできないからポケットに突っ込んだ。
「中身、どんなの?」
「……あの船、相当昔からあるみたいなんだけど……古代船らしいよ」
「古代船?へえ……」
そういえばモノトリアって古代人の末裔だったっけ。特にそれ関係の力はないけど。大昔からある割には、風化してなかったな。
「もしも、あの荒野が海になれば船が動かせるかもって」
「……それはそうだろうけどよ」
「他にはなにか書いてないのかしら?」
「奇跡でも起こらなきゃ無理だよね……他?えっと……」
奇跡、ねぇ。魔法がある世界だけど、完全に原理のない偶然の奇跡はあんまり起こらないよね。それも、あんなに広い場所が海に飲み込まれる、大規模な水没って……トロデーンの呪いよりもありえないような気がするよ。一時的に出来そうな魔術師なんて、伝説クラスの人だろうし、探すより船を建造するほうが早そうな感じ……。それはそれで難しいだろうけど。
「特に書いてない、かな」
「使えないわね……」
「他に情報になりそうな本を探すでがすよ」
「とは言ってももう夜も遅いのじゃよ……明日にするかの……?」
陛下が言葉の途中で驚かれたように消えていった。陛下の視線の先をたどると、その先には見覚えのある、扉があった。振り返って確認してみると、中庭へ続く扉が茨によって塞がれていて、茨が見事に、月の世界へと誘う扉と同じ形になっていた。
「イシュマウリさんなら……」
「行ってみるしかない、よね」
そうだ。人間には起こせない奇跡でも、願いを叶える月の精霊なら。もしか
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