35話 月世界
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踊るように、歌うように、可憐な彼女はパヴァン王に語りかける。彼を信じきった目、楽しそうな笑顔。本当に、本当に彼を愛している彼女の声が、時間を超えて聞こえる。
その姿を食い入る様に眺めているパヴァン王の表情は、悲しげで、切なげで、でも……少しずつ目に光が帰ってきているようだった。
『私の王様』
「セシル!」
『民のことを考えて一生懸命な貴男、誰よりも慕われる王様』
彼女は笑う。健気に笑う。
その笑顔は、時間を超えても……愛し続けた者に届いたようだった。
・・・・
公式の場での完璧な立ち振舞、上品な動作。服装は単なる軽装の剣士といったもので特に旅人としては違和感のないものだが、これほどまでに完璧なマナーを見せる人間の着ているものではない。「彼」とも「彼女」とも取れるような中性的な顔立ちの恩人、トウカさんは先程まで仲間に見せていた温かい微笑みを完全に消し去ったような冷たい表情のまま、私の隣に座っていた。
席順は特に指し示したわけではないから、リーダーであるエルトさんと同等の立場なんだろう。出身地は、トロデーンと言っていたか。ん?……トロデーンの、トウカ?
もしや、と思う。トロデーンの剣士トウカといえば、世界最強とまで囁かれる最高戦力。齢一八歳にして近衛兵にまで上り詰めた猛者、どのような状況下でも君主を守る、決して敵に回したくはない存在。王家の狂信者とまで囁かれる者。
本人だったとすれば、別人だったとすれば。どちらにせよ、この場で問いかけるものではない。にこやかとは程遠いトウカさんの機嫌を損ねることは得策ではない。何であろうとも。
「今後の旅で、お困りのことが有りましたら遠慮なく我が国に来て下さい」
「……お気遣い、痛み入ります」
返事を返したトウカさんは、口元に薄く微笑みを浮かべていたが、その目は背筋をぞっとさせるような冷たいものだった。
……機嫌を損ねるようなことをした覚えしかない故に、どうしようもなく恐ろしい。
・・・・
どんどんトウカの機嫌が悪くなっていくのを感じながら、居心地の悪い場所から僕はさっさと逃げた。多分、あの怒りは僕たちには飛び火しないと思うんだけど、正直見てるだけでも胃が痛くなるから……。
トウカは男でも女でも、へなへなとした柔い人間が嫌いだ。人に頼ることしか出来なかったり、依存し続けるような人間を見ているだけでもイライラするらしい。
それは、分からないでもないんだけど、文句を言われない絶妙な加減で態度を冷ややかにしたり、目つきを悪く調整したりして相手に喧嘩を売るのは心底やめて欲しいと思っているよ……。大人げない。今回の場合、相手は国王だって言うのに。
僕らには見せないような冷ややかな目、感情をわざとらしく削
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