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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十一話 ベーネミュンデ事件(その1)
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「何が聞きたい」
「侯爵夫人が生んだ御子の一件、侯は如何お考えでしょう」

リヒテンラーデ侯が渋い表情をした。しかしこちらとしても引くことは出来ない。興味本位ではない、あの一件が無ければ、彼女は皇后になっていたかもしれないのだ。ベーネミュンデ侯爵夫人に関わるならば、この一件は避けて通れない。不十分な知識で首を突っ込めば火傷するのはこちらだ……。

十年以上前だが、ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナは男子を生んでいる。但し死産だった。その直後、妙な噂が宮中に流れている。

〜生まれた子は無事に出産されたのだが、医師の手で殺され死産とされた。医師は皇帝に男子が生まれる事を喜ばぬものたちの手で買収されていた。その喜ばぬものたちとはブラウンシュバイク公またはリッテンハイム侯である〜。

噂を耳にしたブラウンシュバイク公とリッテンハイム侯は激怒した。犬猿の仲である両家が共同して噂を流したものを探し出そうとしたというからその激怒振りがわかる。もっとも両者の努力は徒労に終わっている。俺自身はこの一件についてある仮説を立てているのだが、政権の中枢にいた侯の考えを聞いておいたほうがいいだろう。

「御子は真に死産だったのでしょうか?」
「……いや、殺されたと思う」
「思う、ですか」
「うむ、しかし、まず間違いあるまい」
かなり自信が有る。そして侯の表情はますます渋くなる。

「殺したのは誰だとお考えです?」
「卿はどう思う?」
「訊いているのは小官ですが?」
「ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯のいずれかだと思うか?」
「……違うと思います」
「……わたしもそう思う」

俺と侯はしばらく見詰め合った。互いの心のうちには同一人物の名が浮かんでいるはずだ。
「卿はなぜそう思った」
「ブラウンシュバイク公にもリッテンハイム侯にも殺す理由がありません」

殺す理由が無い。両者が生まれてきた男子を殺すという事は皇位に野心が有るということになる。しかし、この事件が起きた時は皇太子ルードヴィヒが生存していた。いくら生まれてきた子を殺しても皇位には届かない。まして両家に生まれていたのは女児だ。

皇太子ルードヴィヒの競争相手にもならない。ブラウンシュバイク公もリッテンハイム侯もこの状態で一つ間違えれば大逆罪にもなりかねない殺人を犯すはずが無い。俺はその事をリヒテンラーデ侯に言った。

「私も同じ考えだ、となると犯人じゃが……」
探るように俺の顔を見る。おそらく俺も同じ表情をしているだろう。犯人は厄介な相手だ。
「単純に引き算になりますね」
「そうじゃの」

「三人の内二人が消えました」
「うむ」
「残りは……皇太子殿下……」
「そういうことになるの」
お互いパズルを埋めていくように回答を出す。



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