2話 錯乱
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忘れもしないあの出来事、私やエルト……その他殆ど全てのトロデーン国民を巻き込んだあの忌まわしい出来事は、夏の暑い日だった。なんということもない、近衛兵になってから一年目、しかし新兵というのにはやや慣れていた頃のことだった。
「おはよう……」
「おはよう、仮眠出来た癖に眠そうなエルト。ボクは今日、完徹組なのにさ」
城の夜の警備のペアの同輩が交代し、代わってきた相手はおなじみの相手であるエルトだった。その、私が言えたものでもないけど童顔をふにゃっと眠そうにし、見るからにぐしゃぐしゃの髪の毛。寝てたんだろ、寝てたんだろ!……寝てたんだろ!本当に羨ましい。
それからエルトは小脇に抱えた支給品の兜をくせっ毛を隠すようにカポッと被ってみせた。確かに分からなくなるけど、誤魔化し方、杜撰にも程があるよ……。
「……明日はトウカがそうでしょ」
「うん、そうだね……」
そう言われるともう何も言い返せない。その通りだ。でも今、今日羨ましいのには変わりないんだろ?そういうもんだろ?なあ、エルト?
ちょっとだけ軽口を叩いて、それからは二人して真面目な顔をして押し黙り、静かに、これまた支給品の槍を片手に持ちながら、しん……とした城を見守る。城の前の庭も特に風も吹かず静かだ。時折遠くからカツンカツンと響く音には聞き慣れた。巡回の兵士か交代の兵士の足音だから。
そうそう、私たち二人は、とうとう近衛兵まで登りつめたのだ。単純に戦闘力をかわれた私と、姫様の推薦のエルトで。勿論エルトの戦闘力も近衛兵として充分足りている。推薦なんか無くても大丈夫だったはずだ。だから特に反対意見もなく、異例のスピードで昇進している。
私自身はそんなに自分の戦闘能力に対して自惚れているわけではないが、幼い時から鍛えに鍛え、身長が伸びなくても構わずに筋トレを重ね、死と隣合わせに戦い続けたものだから……さすがに弱くはないはずだ。
一応最近では負けなしで、男装は成功し、女だと疑われることはない。というか最初から疑われることはなかった。
それから、名前は「とうか」という日本ではありがちな女性名だが、この世界では変わった響きの名前だというだけだ。男性名にも女性名にも分類されない。何故名前が一緒なのかは、聞いてみたところ一言「伝統だから」としか返ってこなかった。なんで「とうか」と名付けることが伝統なのだろう……勿論、義父上や義母上の名前は普通の外国風のもので日本名らしかったりするわけではない。
短く切った髪の毛は現在のエルトよりも短かったし、口調や態度にも女っ気をなくしたからだ。十五歳になってすぐに今のエルトより少し長いぐらいに髪を伸ばし始め、十八歳になった今はもう短く切ることはないのだけど、まだ肩にもつかない。隻眼故に
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