1話 「彼」
[3/3]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
心底嫌そうな声で取り敢えず名前だけ名乗ったトウカと、一瞬にして察して一気に表情が固まり、声を無理矢理絞り出したような門番の人。その顔に緊張の色。同時になんでお前は普通に接しているんだ、不敬だと訴えられる。
僕はトウカの両親公認の友達で不敬罪は問われないし、先輩後輩としてだからそういうのを気にしたらトウカが本当に可哀想なんだけど……この考えがあるのはトウカとの付き合いが長いからで。何にも知らないと、まぁ僕もこうなったとしか言えないや……。不必要に敬われるとトウカは限界まで機嫌が悪くなる。だけど、こういう扱いこそが本当は当たり前で、僕とトウカの関係こそがおかしくて。
「ボクは確かにトウカ=モノトリアですが、エルトのただの友で極普通の新米兵士ですから」
「…………しかし」
「どうか、エルトのように接して下さりませんか」
「…………しかし、ですな」
「あの、トウカが震えているんでお願い出来ますか」
何故か昔からトウカは妙な所でメンタルが脆い。人間関係が特に。だからといって簡単には泣き叫んだりはしないけど、十八の大の男が簡単に震えないで欲しい……いや、それ以前の問題だ。十八にもなって友達の後ろでぷるぷるしないでくれよ……。小動物さながらに。とても扱いにも反応にも困る。
「……ぶっ」
「っ?!」
「なんだ、かの有名なモノトリア様がどんな方かと思えば可愛らしい子供じゃねえか!はっはっは、悪いな、トウカ!これからは気にせず接させて貰うさ」
トウカはそれを聞くと僕の背から飛び出し、恐る恐る門兵さんを伺い始めた。……取って食われたりしないってのに、同い年のはずがこういう時だけは幼い子供みたいで困る。
「怖がらせたりしないぞ?」
「……ええ、分かっています、……先輩」
「怯えてこっち見ないでよ」
「エルトの薄情者……」
「ははっ、見捨てたか?」
「あはは……いいえ?見捨てたりしませんよ」
先輩と笑い合いながら、おどおどとするトウカを少しだけ生暖かい目で見た。
でも、僕は知っている。こんなトウカは大の大人が何人飛びかかっても勝てないほどに強かな剣士であることを。門兵のおじさんも、勿論それを知っている。でも、彼は笑みを引っ込めることはもう無かった。
入隊後の初訓練でトウカは八つ当たり気味にボコボコにされたのはまた別の話だ。その時のトウカは憮然としたまま半笑いという器用な真似をしていたとだけ記しておく。
・・・・
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ