第十六話:崩れ落ち行く鉄城で
[6/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
横浜港北総合病院。
ほぼ毎日と言ってもいい程繰り返し通ったエントランスを早足で駆け抜け、面会の札を受け取る。看護師に礼を言うのももどかしく、少女は病室へ急いだ。
この時、彼女の胸中には期待と不安が渦巻いていた。もしかしたら生還しているかもしれないという期待と、未だ囚われたままだという不安。それでも少女は希望を信じて涙を振り払う。
ノックもせず、転がり込むように病室に入った少女が見たのは、慌ただしく作業をする医師や看護師の姿だった。
?????心拍数がいきなり跳ね上がりました!
?????酷い、発汗…!
何が起こっているのか、少女には理解できなかった。だが、ただ一つ、分かったとするならば。
彼女の兄は、まだ、帰ってきてはいないということだ。
「っ、ああ、君かい!?
すまない、少しそちらに移動していてくれ」
兄を担当している医師の指示に、半ば放心しながら従った。窓際の角に立った少女が見たのは、一年前のある時から同じ、苦痛に表情を歪ませた兄の姿だった。
その体に動きはない。だが、心電図に表示される心拍数が異常だ。それに医師の一人が言っていたように、今までにない程、汗をかいている。
「まだ…戦ってるのかな」
きっと、そうに違いない。あの兄のことだ。一人で全て背負いこんで、最後まで戦っているに決まっている。
手の施しようがないことを悟ったのだろう。先程まで慌ただしかった看護師の姿はない。今は、主治医である倉橋医師と、少女と彼女の兄の三人だけだ。
少女が倉橋に目を向けると、彼は静かに頷いた。
ベッドの横にあった丸椅子に腰を下ろし、汗でぐっしょりと濡れた髪や首まわりを拭いてやる。そして、硬く握り締められた彼の手に、自分の手を重ねた。
「頑張って、兄ちゃん……」
今の自分に出来ることは、彼の手を握り、祈ることのみ。滲み出した涙を拭って、彼女は祈りを捧げた。
ただただ、兄の生還を。
† †
濃紺の剣が翻り、鮮血の盾が迎え撃つ。火花と甲高い音が伝播し、荘厳な宮殿を震わせる。
「シッ!」
盾の陰から迸った白剣の軌道を蹴り変え、勇者は体を回転させて盾の内側へと入り込む。
その技巧に舌を巻きながら、魔王は冷徹に対処する。邪魔になった盾を素早く手放し、バックステップで勇者の一閃を躱す。
恐ろしいまでの機転に瞠目する勇者の喉元を狙った突き。避け得ぬ一撃、だがそれも、彼の前では対処可能な刺突に成り下がる。
魔王が手放した盾の縁を踏み付け、自身の体の前に掲げる。鮮血の盾を躱して奥にいる勇者を貫くことはできず、白剣は盾に防がれた。
「フッ!」
そしてそのまま盾を蹴り押す。
ある物全
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ