第十六話:崩れ落ち行く鉄城で
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げる為に私の全てを注いでいた。そのせいで、妹とはもう何年も会っていなかったのだよ。顔も、声も忘れてしまっていた。
君も出会っただろう、彼女のサイバーゴースト……いや、彼女のコピー体に。私も彼女に出会ってね。その時の彼女の髪を掻き上げる仕草で、私は気づいたのさ」
やはり、間違いなく彼女は死んでいた。ならば、彼の言うコピーとはなんなのだろうか。
「先も言った通り、彼女は私に及ぶ程のエンジニアだった。恐らく、彼女はこの世界に入る前に自力で死の枷を外したのだろう。
だが、彼女の性格は君もわかっているだろう?あれだけの罪を犯し、君を深く傷付けてしまった。もう、生きていられるとは思わないに違いない。
しかし、死ぬならば、少しでも君の力になりたい。だからこそ、彼女は自分の魂をこの電子の世界へ解き放つことを選択した」
勇者は何も言わない。
ただ黙し、瞳を閉ざし、魔王の一言一句を聞き逃さないようにしている。
「会話も、会うことすらほとんどなかった私達だが、考え方は同じらしい。
彼女は、ナーヴギアで自分の脳をスキャンし、焼き切って死んだ。結果、そのスキャンは成功し、彼女の記憶と思考は電脳化され、この電子世界を漂うことになった」
それが、死んだ彼女が現れた真実。死んでも尚、この世界を終わらせようとする執念を前に、勇者は顔を伏せた。
そう、彼女は死んだ。故に彼女の悲願を果たすのは、託された者にしかできない。
それが自分である。折れかけていた心に火が灯る。見上げた先の魔王は、歓喜に身を震わせていた。
「ああ、いい表情だレン君。
さて。時間もないし、そろそろ始めよう」
玉座に立て掛けてあった鮮血の盾を手に取り、腰鞘の白剣を引き抜く。
対し、勇者は背の濃紺の剣を引き抜き右手に握る。
「私と」
勇者が舞台へと上がる。
半径50m程の円形状に突出したステージで、魔王と勇者が向き合う。
「君の」
世界の崩壊は加速する。
だがこの場だけは時が止まったかのように、静寂が横たわる。
「決着の時だ?????!」
† †
「はッ?????、はっ?????!」
これまでに数え切れぬ程通ったその道を、少女は走る。
握り締めた情報端末から、イヤホンを通して彼女の耳に新たな情報が送られる。
『?????本日、午後三時からVRMMORPG、ソードアート・オンラインに囚われていたプレイヤーが次々と生還しているという情報が入りました。詳しい内容は未だ不明ですが、SAO事件発覚からの生還者は初めてとして?????』
そこまで聞いて、少女はイヤホンをむしり取るようにして耳から外した。情報はもう十分だ。後は、この目で確かめなければ。
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