クリスマス 間男編
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関わりのない失恋騒動に巻き込まれ、現在発泡スチロールの包丁で絶賛滅多打ち中の俺を、間抜けな大人にカテゴライズしたろ」
「……す、すみませんでした、言葉にしてみるとクるものがありますね……」
「笑ってんじゃねぇぞこの野郎」
無意識に、心の奥底に閉じ込めていた暗い過去が、ぐぐぐ、と喉元にせり上がってきた。
「すみませんすみません、か、帰ります、帰りますから!!」
奴は俺との『格』の違いを感じ取ったのか、いそいそとなまはげセットをまとめて帰ろうとした。俺は徐にドアを閉め、退路を断った。
「俺たちのような人間はな、華やかなイベントの空気に酔わされて余計なアクションを起こすことはな…絶対に、許されないんだよ。…お前、分かるだろ」
じわじわと俺を蝕むのが分かる。あの頃の自分が、ふつふつと俺の細胞を乗っ取り始めている。
「リア充が俺たちの領域を垣間見ることが精いっぱいなように、俺たちも、リア充の世界に足を踏み入れちゃなんねえんだよ。身の程を知らない蛮行の果てには、海面を夢見た深海魚と同じ、無残な死が待っている…」
後ろ手に、押入れをすっと開いた。奴は息を呑み、その奥の闇を見つめる。
「あ、貴方は…まさか貴方は!!」
―――そう、俺は。
「貴方が、なぜ東京に……!!」
俺は無言で『蓑』を羽織り、『面』で顔を覆う。奴は瘧のようにガタガタと震えだした。
「俺をなまはげだと思っているのか…ふん、それは間違っている、だが」
錆びた鎖を肩に掛け、鉄の匂いがする鐘を持ち上げる。
「ある意味、貴様は正しい」
「……え……えぇ〜!?」
『出来上がった』俺の出で立ちに、蓑男は腰を抜かし、細い悲鳴をあげた。
「――サンタクロースのモデルとされる子供たちの守護聖人、聖ニコラウス」
出来栄えを確かめるために、蹄を模したブーツを踏み鳴らす。ざし、と不吉な音を立てた。
「…その影に常に付き従う、異形の存在を知っているか?」
蓑男はぷるぷると震えながら首を振る。…で、あろうな。
「鈎爪の名をもつその異形は、山羊のような角を生やし、悪魔のような恐ろしい姿を現す。そして錆びた鎖や鐘を手に町や村を練り歩き、女や子供を脅して歩く。そして背中の籠に悪い子供を捉え、地獄の釜に放り込む…とされる」
「こ、怖っ」
「実際にはこいつだ」
よく鞣された革の鞭をひゅんと振るうと、蓑男がひっと小さく呻いて首をすくめた。
「クリスマスウィークの約2週間、俺たちは鞭を振るい、子供たちに親の言いつけを守り、よく勉強に励むよう諭す。そういった教訓を含んだ存在だ」
「そ、それは…まるで…俺と同じなまはげ…」
蓑男が、よろよろと立ち上がった。
「貴様は、ある意味正しい。しかしそれはやはり、違う。なまはげではない」
ドイツから単身、仕事の都合でこの日本に渡り、くそ
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