第3章 リーザス陥落
第85話 決戦・ヘルマン第3軍
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違うな……、暖かく、そして心地よい空気だ」
「………ああ、別に珍しくもない空さ」
このような空があること、ヘルマンの薄暗く、湿った宮廷の外に、大きな世界が、広く、広く、広がっていることを、それをパットンにも教えてやりたかった。
だが、トーマは首を軽く振った。いまでなくても、いつかは伝わると信じているから。
「トーマ」
「む?」
ハンティが声を掛ける。
それは、最大級の贈る言葉だった。
「あいつは強いぞ?」
「…………ふふ、ワッハッハッハッハッハッハ!!!」
ここから始まるのは戦争。
殺し合い、だ。
なのに、どうだろうか? トーマの姿は、客観的に、状況を踏まえて見たとしても、死地へと向かう男には到底見えない。そして、迎え撃つ、受け止める、そういった類ではない。……そう、挑戦者の姿其のものだった。
久しく……見なかった姿。
「将軍。そろそろ、リーザス軍が見えてくる頃です」
「うむ」
もはや、ハンティに振り返ることもない。ヘルマン最強の黒騎士は戦場へと臨む。
「……ハンティ。皇子を頼むぞ」
振り返らずに、そうとだけ伝え。ハンティも。
「言われるまでもないさね。任せときな、トーマ」
今生の別れ、というにはまるで軽い。
普通に、普通に帰ってきそうだ。
『良い戦だった』
と軽口を携えて、また 陽気に笑いそうだ。そんな姿が、目に浮かんだ。
ハンティは、軽く笑うと……姿を消した。
「将軍の笑い声……ひさしぶりに聞きました」
「む……、そうだな。国を出てから、どうにも考えることが増えすぎておったわ」
トーマは、その巨体のごつい顎を軽く撫でる。
『………………………』
そうして、兵達にここに集った馴染み深い兵士達に向き直る。
みな、トーマの号令を待っていた。
「……今更、覚悟を問うたり謝ったりはせん。愚かで、そして気高い ヘルマンの誇り達よ。儂はただ、喜びと共に、感謝するのみだ」
ぎらりとした眼で、騎士達をひとりひとり、睨みつける。
「ここが、我らが闘うべき場所だ。祖国を想え、大事な者を想え。その者が明日生きる為……、今日、闘え!」
その目に宿る、滾る様な闘士が、くすぶり続けた騎士たちの心に燃え移っていく。
「剣を取れ! 己のために、勝利のために………、ヘルマンのために!!」
『――――――――ヘルマンのために!!』
それは、大地を轟かす、黒騎士の。……漢の雄叫びだった。
〜決戦の場・ノース近郊〜
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