43.証拠不十分
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巧みに誘導したのかもしれないぜ?」
「牡丹の花だ」
曲がり角を曲がりながら、オーネストは露店にある牡丹の花を一輪つまみ、女性店員にコインを弾いて渡した。店員の女性はオーネストが『狂闘士』であることを知らないのか彼の美貌に釘付けになっているが、当然本人は無視して進み続けた。
「花がどうしたよ?」
「あいつの工房にはこの花があった。定期的に補充していたらしい。そしてこの花を最初に工房に置いていった奴は、犯人だ」
「何だそりゃ。その花の香りに幻覚作用でもあるってのかよ?ケシの花でもあるまいに」
「違う。後催眠誘導だ。それと、ケシの花の覚醒作用は香りにはない」
指で花を弄ったオーネストは、もういらないとでも言うようにそれを近くを通りかかった冒険者の女の子にすれ違いざまに握らせた。渡された女の子が花とオーネストを交互に見て、顔から火を噴いて倒れる。本人には欠片も自覚がないんだろうが撃墜数2だ。
「病院に行く前、ウルカグアリの所でアルガードを見たろ。最初は無邪気にはしゃいでいたのに、モルドが牡丹の花を持ってきた途端に急に落ち着きがなくなった。元々一度の催眠で数週間もたせるのは難しい。おそらく催眠誘導は牡丹の花の香りによってスイッチが入るようになってたんだろう」
「だからあの時ウル達に『牡丹の香りを嗅がせるな』なんて忠告したのか……なるほどねぇ、催眠術のトリガーに利用されてたわけだ」
「犯人は感情を煽るのが上手い奴だよ。『舞牡丹』の為の復讐が建前だったからアルガードも隠喩として捉え、全く怪しまなかったろう。花の香りが切れれば精神の均衡が不安定になり、また花の香りを嗅ぎたくなる。一種の中毒性だな」
ふと対向車線を見ると、不思議な雰囲気の少年がこちらに笑いかけていた。軽く手を挙げて応えると、少年は満足そうに路地に消えて行った。何だあの少年、ちょっと幽霊みたいで不気味だな。このオーネストとの差はなんなのだろう。
「ただ、恐らくは犯人にも誤算だっただろうな……アルガードがウィリスをも殺そうと考えてたのは」
「確かにな……ウィリスを殺す事への執着は明らかにズバ抜けていた。それに犯人が自分を殺すよう誘導する訳ないしなぁ」
「自分の魂の一部を定着させたネックレスを手渡し、それを感知することで相手を追う……パラベラムの話だとそういうカラクリだったそうだ。それにあいつは本物のウィリスが死んでいる事を知らなかったし、工房から出発して以降誰かを追うように何度か進路を変更している。犯人は街の中にいた」
通り過ぎる人並みに避けられながら俺達は街外れの教会に向かっている。俺の提案で、ヘスヘスの新しい眷属の顔を拝みに行こうと提案したのだ。俺は既に面識があるが、オーネストはまだなのだから。
しかし、街の中にいたということは、今も潜んで
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