43.証拠不十分
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分されている。
どちらにせよ、当時立証できなかったような事実を覆す証拠を相手がずっと手元に置いているとは考えづらい。当時に彼がどれだけ頑張ったところで、責任の所在が誰にもなかったことを立証するのは無理だったろう。
「その事は、他の連中には伝えなかったのか?」
「当時はみんな疑心暗鬼だったから、言っても信用されないのが怖くて言えなかった。その後、あの頃のメンバーはバラバラになって……再会した何人かには伝えたよ。ただ、アルガードには言わなかった。職人として完全に復活してたあいつの心の傷を、今更になって穿り返したくはなかったからな……」
すれ違った真実。すれ違った想い。すれ違った結果。
全てが噛みあわないまま不協和音だけが響き、全ての人間を不幸にした。
始まりの事件での『敵』は消え、弾劾する相手も残されてはいない。
= =
取り調べを病室の扉の横に背を預けながら聞いていたアズとオーネストは、これ以上は聞く必要がないと判断してその場を後にした。
「カースが真実を伝えていたら、アルガードは事件を起こさなかったと思う?」
「アルガードが事件を起こしたんじゃない。起こすよう誘導されてあっさり乗せられただけだ。そいつを操ったクソ野郎の機嫌次第だな」
「本人の意志は無視かよ。悪党だねぇ、そいつ」
「この世に正義も悪もあるものか。あるのは、俺がそいつを許さないという事実だけだ」
「キレたか?」
「見つけたらとりあえず殺しておく」
オーネスト・ライアーという男は、洗脳とか信仰とか、とにかくそういうものが大の嫌いだ。人間の意志が別の大きな意志やイデオロギーに支配され、行動を制限されている光景を見るのが心底お気に召さないらしい。その判断基準は明瞭ではないが、オーネストは人間の尊厳に煩い。
自らの尊厳を捨てて他人の主義を振りかざす奴は「狗」。
自らの尊厳を諦めて流されるままの奴は「気に入らない」。
自らの尊厳を捨てずに泥の中でもがく奴には無言で手を貸す。
そんな彼が「許さない」と言ったのだ。犯人はオーネストに未来永劫許されることはないだろう。とても個人的で単調な話だが、彼にとってはその認識が重要なのだ。
病院の階段を下りて外に出る。鎧騒ぎの復興で忙しいのか、大通りはひっきりなしに馬車が行き来していた。
「アルガードは操られてたのか?確かに狂気は感じたが、彼自身の本音はピュアだったように思える」
「恐らくは特定の感情を偏らせる催眠術の類だな。人間、普通は特定の感情が存在しないことはない。憎しみだってあったろう。犯人がやったのは、そんな小さい感情ばかりを強く感じ、催眠をかけた本人をウィリスだと思い込ませるような……まぁ、複雑な催眠だ」
「確証はあんのかよ?言葉
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