43.証拠不十分
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この世に残すという矛盾を捨て置いてもよかろうか、と疑問を抱く。死を前に筆とると思いのほかに書き残すことが思いつく。
信愛なる9人の職人と女神、そしてその眷属たちよ。先立つ不孝を赦し給え。お前達には未来がある。されど俺は背負った罪に耐えながら未来を目指す気概は残されていない。もしこの日記を見つけたら、そんなもので罪を贖ったことになるのか、と鼻で笑ってくれても構わない。
真実は、いつか誰かがアルガードに伝えることだろう。カースはお喋りだから、もう誰かに漏らしていてもおかしくはない。アルガード、これを読んでいるか。無責任な男だと憤って日記を投げ捨てるお前の姿が目に浮かび、思わず少しだけ笑ってしまった。
ピオへはここには書かない。彼女はこちら側にはいないのだから。
親愛なる女神様には、既に十分すぎる程に謝意を書き綴ったからもうよいだろう。
これ以上ペンを握っていると名残惜しんで躊躇いそうだから、ここで乱筆なる我が独白を絞めさせてもらう。
罪を償うのは、咎を負うのは、俺一人で良い。
「これが、現場から出てきた代物だ。お前さんの名前もあるぞ、カース」
次の瞬間、震える男の手がベッドに力の限り叩きつけられた。
「馬鹿野郎………馬っ鹿野郎があああぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!」
容体が安定したばかりのカースは、その日記の内容を知るや否や、怒り狂って部屋の備品を片っ端から投げ飛ばし、子供の癇癪のように暴れ続けた。なんとか鎮静化した頃には、病室は何者かの襲撃を受けたようにボロボロになっていた。そんな中、彼のベッドの前で微動だにせず日記片手に座り続けていたヨハンが口を開く。
「落ち着いたか?」
「全く気は済んでないんだがね……暴れても意味がないという理性が働くぐらいには、冷めたよ」
項垂れるカースの顔には、酷い狼狽の色が見え隠れする。彼はやはり、この日記の意味に勘付いているようだ。
日記には不自然な部分がある。アルガードの証言内容を纏めると、ピオという冒険者が死んだのは改造した剣の強度が下がった所為。そしてそれを作ったのは誰か分からなかったらしい。だが日記の内容は少し引っかかる。
彼が自責の念に駆られて自害したことは想像に難くないが、気になる点は二つ。一つは、まるでウィリスが他の9人より遙かに重い責を負っているかのような独白。そしてもう一つは「真実は、いつか誰かがアルガードに伝えることだろう」という一文だ。
「真実とはなんだ。そして何故君がそれを知っているのか。その真実とやらを伝えたからアルガードはああなったのか、それとも否か……因果関係をはっきりさせておきたくてね」
「………ウィリスは」
「ん?」
「俺が出くわしたあのウィリスは誰だったんだよ……」
「少なくとも
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