43.証拠不十分
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気配がする」
アズが、黄金仮面を取り外して呟く。
その瞳は全てを吸い込みそうな深淵の如く、その場の人間には理解できない何かを見つめている。
「……『死』だ。それも、これは……」
「駄目だ、アズのダンナ。全く使われた形跡がないせいで中の錠まで完璧に錆びてる」
「とりあえず、ここに管理者がいるんなら『告死天使が修理代を出す』って言っておいてくれ」
「え、ダンナ……?」
緩やかな手つきでラッターを横に誘導したアズはふぅ、と息を吐き、とんとん、とつま先で地面を叩く。そして、目にも止まらぬ砲弾のような速度で扉に蹴りを叩きこんだ。
バキャン、と小気味の良い音を立てて酸化した扉の鍵が割れ、勢いよく扉が建物の中に飛び込んだ。幾ら錆びているからといって容易く蹴破れるものでもないだろうに、あれを人間が受ければ体を貫かれるほどの衝撃を受けるだろう。まるで黒い槍だ、とレフィーヤは顔をひきつらせた。
その瞬間、部屋のなかに押し込まれた空気が大量の埃を捲き上げて外に放出された。扉の正面にいたアズ以外の人間の足元からも吹き上がる埃に周囲が咳込む。
「けほっ、けほっ!!な、何ですかこの埃の量はぁ……ああ、制服が埃まみれに!!クリーニング代だって安くないんですよぉ〜……?」
「こ、これはどう考えても長年放置されてた証ですよね……って、アズさん!?」
アズは埃をまともにうけて灰色になったお気に入りの黒コートを脱ぎ捨ててラッターに放り出し、有無を言わさず部屋の中に突入する。今まで温厚だった彼らしからぬ性急な行動に、思わず他の三人は焦って後ろをついてゆく。
部屋の中はとにかく埃だらけで、古くて、そして狭かった。罪人の放り込まれる檻とそう大差がない程度の大きさしかないその部屋には、机と椅子以外には何一つ家具がない。
そして――。
「え………う、嘘………!?」
そして――。
「………なるほど、やっとアンダースタンドしたよ。道理で誰も姿を見ていない訳だ」
そして――。
「…………俺達の探したウィリスという男はずっとここにいたんだな。但し――当の昔に魂は冥府へ旅立ったようだ」
そこには、天井から吊るされ先端が輪になったロープにぶら下がった『もの』があった。
かつては恐らく生物だったのであろう――水分は蒸発し、筋繊維や皮膚の残骸が辛うじてそれの原型を保っている。主成分はリン酸カルシウム、色は黄色に限りなく近い白、床には直径1M近くの茶色い染み。
レフィーヤは口元を抑えて嗚咽を漏らし、ラッターは静かに目線を下におろし、アズは瞑目する。そして、この中で唯一『それ』を見たことがなかったトローネが、埃まみれの部屋の床にぺたんと尻もちをつき、悲鳴を上げた。
「い………嫌ぁぁぁぁぁぁああ
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