暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 9
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、わざとらしく小首を傾げる。

「神父様が仰る通り、私はアリア信仰の信徒ではありません。身内に信徒が居るということもありませんし、教会に足を運んだのも今日が初めてです。女神アリア……厳密に言うと人間には不可能不可解な現象や存在そのものを信じてないのです。なのに、こうして自分が苦しい時だけは都合良く救いを求めてしまう。誰かの幸せにあやかりたいとそんなことばかり考えている。こんなにも礼に欠けている私が、信徒になっても良いのですか?」

 臨機応変。
 バレてるならバレてるで、手段を変えるだけの話だ。

「良いんじゃないでしょうか。初めから特定の信仰心を持って生まれてくる者などいません。私も、幼少の頃は信徒ではありませんでしたし。私が知る王都の修行徒達も似たようなものですよ」
「そう……、なんですか?」

(良いんじゃないでしょうかって。そんな軽いノリで良いのか、宗教団体)

「信仰心とは、予備知識と習慣に伴う実感をもって自然に積み重なる想い。解りやすく一言でまとめるなら、『感謝』なのです」
「……感謝?」
「ええ。貴女にもある筈です。自分一人では、決して叶えられなかった夢。絶対無理だと思っていたことが、不思議と達成できた瞬間。どれだけ足掻きもがいても抜け出せなかった苦境から救ってくれた、奇蹟のような出会い」

 ミートリッテの肩が微かに揺れる。

「万に一つの偶然。いつもなら思い付きもしない何か。私達は、日常にふと訪れるそうした差異を神の祝福と考え、感謝しているのです。すべての宗教関係者が同じとは言えませんが、少なくとも私自身は、アリア信仰が唱える教えの根幹を『生かされている事実への感謝』であると信じています」
「感謝、ですか……」

 なるほど、そう言われれば確かに解りやすい。
 生まれつき持っているものではないが。
 きっと誰もが知っている、誰にでもある身近な気持ち。
 ミートリッテの行動原理だ。

 だが。
 それは、温もりをくれたハウィスや村の人達に向けられた想いであって、女神アリアへの感謝なんかは欠片も持ち合わせてない。
 神は居ると言われてるだけで、実際に何かしてくれたわけじゃないから。

 宗教なんて、人間の弱さが作り上げた、ただの精神的象徴。
 願おうが祈ろうが道の一本も示してくれない、お飾りだ。

 いや。
 アーレストが言う通り、ハウィスとの出会いを女神の祝福だとするなら、二人が海岸で出会うまでの、それぞれの経験や感情や人格まで、何もかもが女神の仕込みだったということになってしまう。
 ミートリッテは、両親との酷い死別と後悔が無ければ、国境を越えるほど遠くにまで来なかっただろうし、あの日ハウィスに会わなければ怪盗になる理由はなく、当然、海賊からの依頼も受けてなかった。
 
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