第1章転節 落暉のアントラクト 2023/11
8話 深紅の情動
[6/6]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
に物語っている。赤ジャージが手掛けたとは思えないような逸品が今ここに誕生したのだった。
「刺繍はいつもの素材のお礼にとっといて。そんで、お友達によろしく言っといてね」
「何から何まで悪いな」
「いいってことよー。んじゃま、お外は暗いから気ぃ付けて帰んなよー」
「徒歩三分圏内だけどな」
「え、もしかしてご近所さん? ヒヨリっちにお姉さんの晩御飯もお願い出来ちゃう?」
「ヒヨリとティルネルは留守だよ」
「ありゃりゃ? じゃあ、お姉さんトコに泊まっとく? その代わり、今夜は寝かさないぜ!」
「帰る」
「もー、照れ屋さんなんだからぁん」
冗談の大安売りも終わり、ひらひらと手を振るローゼリンデに見送られながら自分の拠点へと歩を進める。ともすれば雪でも降りそうなくらいに冷え込んだ気温を仮想の肌で体感しながら家路を目指す。
――――そんな折、メールの着信を報せるサウンドが鳴り、思わず足を止めてしまう。
差出人は、意外にもグリセルダさんだった。
何らかの略称かアルファベットの羅列が数文字だけ並んでいる。
真意を問うべくメールを開くと、メッセージは白紙。軽く見積もってもタイプミスか、考えづらいことだが悪戯か、それとも誤って送信してしまったか。俺の見解としてはどれも決定打に欠けた選択肢だ。グリセルダさんの性格からして悪戯や誤送信はそれこそ在り得ないと見て良さそうだが、断言も出来ない。
「ったく、何をしているんだか」
しかし、もし今後もこのような得体の知れないメールが届くようでは困る。
怒鳴り込みにいくという訳ではないが、気を付けてもらう意味でも文面ではなく出向いた方が説得力の面でも有効な場合がある。居場所を探るべく《追跡》スキルでグリセルダさんの居場所を探ることにする。
「………なに?」
受信メールから沸き上がった疑問が、更に増量する。
追跡スキルが示すグリセルダさんの所在地は、なんと現アインクラッド攻略最前線である三十五層。
しかし、主街区ではなく村に居たらしく今は真っ直ぐに北上を続けている。三十五層の北、そこにあるのは《迷いの森》と呼ばれる、現層攻略において最難関たるエリア。碁盤上に区切られたエリアで構成されたフィールドは、一区画に一分滞在すれば周囲がランダムに連結され、現在地の把握を阻害する。出現するモンスターのレベルから考えても、クリセルダさんには荷が重い。ましてや、自身の安全マージンから大きく逸脱したエリアで狩りを行うことなど、グリセルダさん個人が考え付くとは思えない。
とはいえ、結論は出ないまま、俺は北へと駆け出していた。
そうしなければいけないと、思考や理性とは別の領域でそう感じたのだから。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ