第二十六話 困った子ですその十一
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「そうよ」
「左ですか。道狭くなりますよ」
「それでも近道になるからいいのよ」
「そうですか。けれど何か」
また急に笑顔になってきました。
「嬉しいですね。あそこを歩くなんて」
「!?何で?」
今の言葉の意味はわかりませんでした。何が言いたいのか。
「何でなの?嬉しいって」
「イチョウの道に出るじゃないですか」
黒門からすぐに出たその道は左右にイチョウが並んでいます。秋は落葉が奇麗ですけれど同時にイチョウの匂いが強い困った場所です。
「あそこを二人で歩けるんですから」
「それがどうしたのよ」
「デートとしては一番絵になりますよね」
笑顔での言葉でした。
「イチョウの並木道のデートでって」
「な、何言ってるのよ」
何かと思えばまた変なこと言って。
「あのね、だから私と君は先輩と後輩で」
「それでも恋人同士になるじゃないですか」
「恋人同士!?ふざけないでよ」
「ふざけてるように見えます?」
「見えるわよ」
自分でも驚く位焦っています。
「私はね。そもそもただ君を彼氏じゃなくてお手伝いさんとしてね」
「僕はお手伝いさんなんですか」
「自分で言ったじゃない。いい加減にしなさいっ」
「いい加減も何もよ。デートなんてしたことないじゃない」
「デートしたことないんですか」
「当たり前よっ」
一旦顔を背けて言ってやりました。
「デートなんてね、旦那様と一緒になる人じゃないとね」
「二歳上かあ」
私の話を聞かずにまた変なことを言ってきました。
「それもいいかな、姉さん女房って」
「姉さん女房って何が?」
「あっ、何でもないです」
今の私の言葉には返そうとしません。
「気にしないで下さい」
「?またどうしたのよ」
「ですから御気になさらずに」
「よくわからないけれどいいわ」
これでとりあえず話は終わりでした。
「それはそうとよ」
「はい。何ですか?」
「行きましょう。信号青になったし」
「わかりました。じゃあ並木道のデートで」
「だからデートじゃないでしょっ」
「わかってますって」
「どうだか」
そんなことを言い合いながら何はともあれ詰所に向かいました。どういうわけかこの子としょっちゅう会っている気がしてきました。
第二十六話 完
2008・10・3
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