圏内事件 ー終幕ー
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「……充分過ぎるとも、探偵君。 君も愛情を手に入れればいやでも理解するだろうよ。 それが失われるときの屈辱と惨めさをね。 そしてーー」
グリムロックの狂気染みた視線がキリトから私へと移動する。 がしかし、それを敏感に察知したユーリが庇うように一歩前へと出た。 鍔帽子の影に隠れた表情を不気味に歪めながら、続けた。
「赤い娘は、私に指輪の事を訊ねていたね。 確かにそれは何処かにやってしまったよ。 だが、誤解しないでほしいな。 ユウコへの愛情がなくなったわけではなく、単に必要ないからだ。 なぜなら、彼女は私の思い出の中で生きづいているからね。 だから、あんな形式的なものは必要ないんだよ。 分かるかね? いや、まだわからないだろう……」
妻を殺した夫は胸へと右手を置き、そう締めくくった。 同時に私の心中では疑心が満ち、あり得ないだろう恐怖に震えた。
もし、もしも……私が変わったら、ユーリもこの男のようになってしまうのだろうか。 いや、そんな事はない。 けど、もしかしたら……
「……大丈夫」
「えっ……」
自ら肩を抱きしめ俯いているとポンッと頭に手を置かれ、そう囁かれた。 慈愛に満ちた声音は心を暗くする疑心の霧を払い、いつしか体の震えも治まっていた。 照れ隠しなのか、わしゃわしゃと強めに撫でるとユーリは手を離し、グリムロックを強く睨みつけると語調を強めて言った。
「……グリムロックさん、あんたは間違っているよ。 あんたが、グリセルダさんにーーあんたの妻に抱いていたのは、愛情なんかじゃない。 ただの所有欲だ」
「なにっ……!」
チラリと私の方を向くと、再びグリムロックと向き合い毅然とした態度で続けた。
「レアアイテムを手元に置きたがるように……あんたも理想の妻を手に入れて悦に浸っていただけだ。 だからこそ、それが自分の手の届かないところに行ってしまう事に、もしくは他の誰かの手に渡ることを恐れてーーそれこそ、殺してまで手元に留めておきたかった。 違うか?」
グリムロックはがくりと膝から崩れ落ちた。 グリムロックは下向いたまま、動こうせず、再び静寂が訪れた。だがそれを破ったのは、押し黙っていたシュミットだった。
「……キリト達よ。 この男の処遇は俺たちに任せてもらえないか。 もちろん、私刑にかけたりはしない。 だが必ず罪は償わせる」
その落ち着いた態度に数刻前までの怯えは一切見られない。 キリトは、無言で頷くと解ったと一言言葉を返した。
無言で頷き返すと、カインズと共にグリムロックの両腕を?み立たせ、丘を降りて行く。
その後を、小箱を埋め戻したヨルコさんが続いた。 私たちの横で立ち止まると深く一礼する。
「皆さん、ありがとうございます。 何とお詫びすればいい
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