圏内事件 ー終幕ー
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つ。
私たちが反論出来ないでいるのを見ると、グリムロックは少しばかり口角を持ち上げた。 しかし、その表情をすぐに消し、グリムロックは悼むような仕草を見せながら言葉を続けた。
「……彼女はスピードタイプの剣士だった。 だから、売却前に指輪に与えられた凄まじい敏捷力補正を少しだけ体感してみようと思っても不思議ではないだろう? だが、あの指輪の為に大切な妻を失う事になるとは……私は悔しくてならないよ」
グリムロックは鍔を下げ、表情を隠すと最愛の妻の死を惜しんで見せた。 やがて顔を上向けると黙り込んだ私たちを見渡し、慇懃に一礼する。
「では、私はこれで失礼させてもらう。 彼女を手にかけた首謀者が見つからなかったのは残念だが、シュミット君の懺悔だけでも、いっとき妻の魂を安らげてくれるだろう」
グリムロックはマントの裾を翻し、この場から立ち去ろうとする。 がーー
「……ねぇ、グリムロックさん」
「…………何かね?」
ーー私は鍛冶屋を呼び止めていた。
初めはそんなつもりはなかったけど、これだけは訊ねておかなければならない。 そんな決意を秘めて私は告げた。
「さっきから、愛しいとか、最愛のだとか……言ってるけど、本当にそうだったの? 」
「藪から棒だな。 勿論だとも、生涯私が愛するのは恐らく彼女だけだろう」
振り返った男は、一瞬厭わしそうな表情を浮かべるとそう言ってのけた。 だが、構わず私は続ける。
「……それは、グリセルダさんが死んでからも?」
「あぁ……勿論だとも。 だがなんだな、急に私と妻との仲を疑り始めて……。 よくミステリ物にあるように夫婦仲の拗れ、なんてものを疑ってるわけではないだろうね?」
グリムロックは声に怒気を滲ませるとあんなものは「創作上の都合だ」と言った。 私もそんな事を聞きたいわけじゃない。 此方を強く睨んでくる。
「なら、その奥さんとの結婚指輪、今どうしてる?」
「っ……!」
グリムロックの肩が小さく震え、黒手袋が嵌められた右手を左手がギュッと?んだむ。 だが、彼は一向に革手袋を外そうとはしない。
SAOにおける〈婚約〉には、指輪の交換を必要とはしないが本当に愛しあって、信頼し合っている仲なら必ずすると言ってもいいだろう。 それに死後も愛し続けている言った男なら、忘れないために指輪は外さないなり、保管しておくなりすると思ったのだが……
「……はぁ」
なんだかがっかりだ。 途端に先のグリムロックの発言が薄っぺらなものに思えてきて、同時にこの男による妻殺害の嫌疑が高まった。
今思えば実際、殺害法なんて無数にあるのだ。 ストレージ共有化が解除され、アイテムが収納仕切れなくなるのだって、殺害直前に要らないもの
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