三十九話:正体
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なにも苦しむのなら、あたしを救わなければよかったのに…!」
「それだけはあり得ないよ。君を救ったこと自体に後悔もない。なにより僕は―――」
いったん言葉を切りふっと自嘲気味に笑い切嗣は呪いの言葉を吐く。
「―――正義の味方だからね」
だから家族を捨てて君を救ったんだ。そう言われたような気がしてスバルは戦意を失い崩れ落ちる。大切な者を犠牲にすることで見知らぬ誰かを救っていく存在に自分は憧れを抱いていたのだ。そのあり方は間違いではないのだろう。美しさすら感じられる。だが、余りにも残酷過ぎた。
自分を犠牲にすることは簡単にできる。しかし、自分の家族を、大切な者達を、名前も知らない人間の為に死に追いやることが自分にできるだろうか。否、そもそも自分にそのような行為が許容できるとは思えない。エゴで家族を殺すなどあってはならないはずだ。
「誰もかれも救おうとは思わず、自分の手の平に収まる範囲で守っていけ。そうすれば僕のようにはならない」
止めを刺すために切嗣は優しく、それでいて強制の意志の籠る声をかけていく。今ならば彼女は踏みとどまれる。人間らしく愛する者達だけを守り、自分だけの世界を創り上げていけばいい。誰も恨むことなく、恨まれることもなく、ただ平穏に暮らせばいい。
「……まだ、質問があります」
もう動かないと思っていたスバルの唇が動く。訝し気に眉を顰める切嗣に対してスバルは顔を上げ、未だに折れていない芯の通った瞳で射抜く。
「そんなに悲しいことばかりをして、あたしを止めようとするほど間違いだって分かっているのに、どうしてあなたは―――止まらないんですか?」
「…………」
「答えてください。あなたが罪を重ね続ける理由を」
切嗣は答えることが出来なかった。余りにも真っすぐ過ぎる瞳の前に言葉が出てこなかった。何故彼女は折れないのか。何故未だに信じることをやめないのか。理解できなかった。もしや彼女は自分以上に壊れているのではないかとさえ感じてしまう。
沈黙が場を支配し、影を地面に縫い付けられたかのように誰一人として動くことが出来ない。世界の時が止まったかの如く音も空気も動かない。だが、世界が真に止まることなどあるはずはない。必ずその均衡を破る者が現れる。
『Plasma lancer.』
「―――ッ!?」
突如として横合いから切嗣に襲い掛かる電光の槍。反射的にシールドを張ることで防ぐことに成功するが一気に情勢が変動したことを悟り切嗣は大きく舌打ちをする。魔力が胡散したことでできた煙が晴れた先にはバルディッシュを構え険しい表情をするフェイトと血だらけのエリオを抱きかかえるなのはが立っていた。
「時間をかけ過ぎたか……いや、
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