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八神家の養父切嗣
三十九話:正体
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血が流される!
 僕はそれが―――耐えられなかった…ッ! 君だって同じはずだ、耐えられるはずがないッ!
 一秒でも状況が止まっている間に目の前で人が死んでいく状況を許せるはずがないッ!!」

 会談を行う時期になれば流石に休戦になるだろう。だが、そこに至るまでにかかる時間はどれほどか。上の人間が話し合うべきかどうかを考えている間にも下の人間はその命を散らしていく。視野の狭い状態ならそんな彼らを見ることなどしなかっただろう。

 しかし、切嗣の視界にはいつだって死にゆく人間の姿が入ってきていた。それに耐えられなかったから彼は戦争を終わらすために人を殺した。それがどれだけ滑稽で、どれだけ愚かな行為かなど彼自身が知っていた。だとしても彼は無意味な死を肯定できなかった。

「あなたは……優しすぎる」

 ポツリとティアナが呟く。衛宮切嗣はスバルと同じように自分よりも誰かを救いたがる優しい人間なのだ。現実の残酷さを許せない程に優しいから誰よりも残酷な生き方をしてきた。そしてそんな生き方を誰よりも恥じている。だからこそ、こうも感情的にスバルを説得しようとしているのだろう。それは、なんという悲しい光景だろうか。

「優しい? まさか、本当に優しい人間なら誰も傷つけない。家族を殺そうなどとはしない。何より、名も知らぬ他人の為に愛する者を奉げたりするものか!」

 自己嫌悪。切嗣から吐き出された言葉から感じられるものはそうとしか言いようがなかった。スバルは認めたくなかった。自分が理想としてきた者の弱さを、醜さを。何よりも自分が目指したものがあの日、彼らを地獄に追いやったものなのだと。

「犠牲と救済の両天秤は自分が測り手にならなくとも自動的に動く。あの火災で君を救うために僕は対価として―――妻を犠牲にした。……名も知らぬ子を救うためにね」
「―――え?」

 まるでハンマーで頭を殴られたような衝撃がスバルを襲う。あの時見捨ててしまった者達は今日まで忘れたことがない。しかし、あの者達だけだと思っていた。自分が踏みにじって生きてきた人達はあれで最後だと。だが、現実としては自分の為に傷ついた者がまだ他にもいたのだ。

「ああ、安心してくれ。妻は生きているし今は元気だ。ただ、君が気を失った後に降りかかる瓦礫からその身を挺して僕達を助けてくれただけ……妻よりも見知らぬ子を守った僕をね」

 スバルにはその時の状況など分からなかったが二つほど分かったことがあった。衛宮切嗣という男は妻を深く愛しているということと。家族ではなく自分の理想を取ったことに後悔の念を抱いているということが。

「そもそも僕が誰かを救うという憧れに固執した結果として守らなければならないものを見失った。いや、例え見えていても……君を救っただろう」
「どうして……そん
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