三十九話:正体
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間まで死に追いやってきた快楽殺人にも劣る!」
大の為に小を切り捨てる。一見正しそうに見える理念ですら男は間違いだったのだと気づいてしまった。今まで必死に見ないようにしてきた犠牲にしてきた者達は死ぬ必要などなかったのではないのかという可能性を見せつけられたがゆえに男は狂った。
「誰も悲しまないように、誰も苦しまないように、それだけを願って走り続けてきた。その結果がこの世で最も悲しみと苦しみを生み出す機械の完成だ。全てを救うなどと夢を見ている限りこの結末からは逃れられない」
救おうとした人間にすら絶望を与えていたどこまでも滑稽な人形。自分で自分が嫌になることを通り越して殺意すら覚えるほどの自己中心主義的な極悪人。それが理想を求めた先に得た答えだった。
「それなら…! 誰も傷つけなければいいだけ。殺しなんてせずに誰かを救っていればいい!」
「ふっ……初めはそうだったさ。君ぐらいの頃は苦しんでいる誰かを救おうと世界中を飛び回った。だが、生きている限り、争いはどこに行っても目に付いた……キリがなかった」
確かに誰も傷つけずに、殺さずにただ人を救っていれば良かったのだろう。それならばこんな歪んだ存在になる必要もなかった。自分のせいで犠牲になる者達も現れることはなかっただろう。しかしながら、切嗣は満足できなかった。何故なら、彼の夢は誰もが幸せな世界だったのだから。
「子供のように我慢できなかった。曲がりなりにも一人を救ったことで視野は広がってしまった。 一人の次は十人、十人の次は百人、百人の次はと……自分の欲望を満たすためにより多くの人を救うことに執着してきた」
「なんで…? それでも誰かを救えばいい!」
「欲に目が眩んだとでも言うべきかな。戦争で死ぬ人間を減らすのに最も効率の良い方法はどちらかに一方的な勝利を収めさせることだ。その為にはどちらかの主要人物を始末するのが最も早い」
誰かを救いたいと願いながら誰かを殺す。フォワード陣達はその矛盾した行動の理由が分からなかった。端的に言って狂っているとしか言いようがない。この世の誰があなたを救いたいと言いながらその人物の心臓を潰すだろうか。そんなものは、ただの異常人物か、特殊な性癖の人間ぐらいなものだろう。もしも切嗣がそのような人物であれば、どれだけ……救われたであろうか。
「殺す必要なんてないよね? 話し合いで解決すれば誰も死なずに済む」
「ああ、理論上はそうだな。だが、戦争になるほどまでに憎み合う相手が簡単に譲歩するとでも?」
「それは……」
頷くことはできない。人の感情とはそれほど単純ではないのだから。愛する者を殺した相手を八つ裂きにしたいという憎しみが生まれないはずがない。
「第一、そこにこぎつけるまでにどれだけの時間がかかる? どれだけの
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