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八神家の養父切嗣
三十九話:正体
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。そのような事実を一体どれだけの人間が受け入れられるだろうか。少なくともスバルには無理だった。

「そんな理由で誰かを傷つけていいはずがないよ!」
「ああ、事実そうだろうな。だが、スバル・ナカジマ、君はただの一度も―――他者に不幸が訪れた際に己が必要される嬉しさを感じなかったとでもいうのかい?」

 怒鳴り声をあげていたスバルであったが切嗣の言葉に黙り込む。心当たりがないわけではなかった。誰かを守るために己が身を差し出せるときに少なからず喜びを感じていた。誰かの為になるという行為そのものを報酬としていた。

 魔導士Bランク試験の時も身代わりになることで己の強迫観念を鎮めようとした。ホテル・アグスタでの警護の際も自分が犠牲になることで他者を守ろうとした。それらは全て自分にとって報酬で、他人の不幸を心のどこかで―――待ち望んでいた。

「そ、それは……違う…! あたしは誰にも傷ついてほしくなんかない! 不幸になんてなって欲しくない!!」
「自分の醜さを認めろ。君が正義の味方を目指している時点で、君は常に心の奥底で己の欲求が満たされる瞬間を、不幸になる人間を探している」
「違う…! 違う! 違うッ!」

 必死に否定を続けるスバルに他のフォワード陣は何も声をかけることが出来ない。擁護してやりたかった。しかし、今の彼女には擁護の声など届かないだろう。届くとすれば、それは……どこまでも残酷な事実。


「違うことなどない。なぜなら君の理想は―――そんな想いを持った僕なのだから」


 そう、スバル・ナカジマは衛宮切嗣という男に憧れてしまった。男のようになろうと仮初めの理想を抱き続けてきた。ならば、男のように矛盾した願いを抱くのも必然。偽物が本物を超えることはできるかもしれない。だが、偽物である以上は本物の本質と同じでなければならない。剣を模倣するならば剣、人間であるならば人間、歪んだ心であれば歪んだ心を真似る以外に道はないのだ。

「あたしは……あたしは……!」
「悪いことは言わない、理想など犬に食わせてしまえ。そうすれば先に続く地獄を見ずに済む」
「……これ以上に酷いことがあるの?」

 スバルは純粋にこれ以上苦しいことがあるとは思いたくなかった。自分の目的のために他者を踏みにじる行為。それ以上に酷いものとは一体なんなのか、もはや考えたくなどなかったが切嗣は容赦なく続けていく。

「若い頃は自分がどれだけ醜い存在であるかなんて理解していなかった。だから、大勢を救うために少数を殺してきた。数え切れないほどにね……」
「それは……」
「だが、そんなものは人殺しの言い訳に過ぎなかった。何が大勢の為に少数を犠牲にするだ。結局のところ僕は誰かを殺してきただけで誰一人として救ってなどいなかった! いや、死ぬ必要のない人
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