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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 8
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喚《わめ》いていただけ。
 誠意が欠けた謝罪なんてきっと、されるほうがいい迷惑だ。

 アーレストの瞳に、みっともない子供の姿を見て。
 沸き立った全身の血が、すーっと冷えていく。

「……すみません。勝手に騒ぎすぎました」

 アーレストはきょとんとして……優しく微笑んだ。

「貴女は、見た目以上に内面が綺麗なのですね」
「は?」
「失礼します」

 つい、と顔を寄せて、何をするつもりかと思えば

「…………はいぃ────っ!?」

 両の目元に、軽く口付けられた。
 ゆっくり離れた彫刻の微笑みに、くわっと目を見開く。

「な、ななっ、なに……っ!?」
「このままでは、ただれてしまいそうです」
「は!? え!?」
「涙で」

 自身が着ている服の(そで)で、戸惑うミートリッテの目尻を撫でる神父。
 どうやら自分は、眠りながら泣いていたらしい。
 何故……と考えて、答えはすぐに出た。

(この人が、悲しげに微笑んでたせいだ)

 王都に居る親友達の話をしていたアーレストの泣き出しそうな顔を見て、迂闊にも彼と自分の過去を重ねてしまった。

 生死に(かか)わらず、親しい者に会えなくなるのは、それだけで辛い。
 ミートリッテは、別れの悲しみを知っている。
 どれだけ優しくされても埋められない空白があることを知っている。
 だから、アーレストの微笑みに『会えない寂しさ』が触発され。
 感情に引きずられた記憶が落ち込んだ。
 そんな場合じゃなかったのに。

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

 アーレストの手をやんわり押し返し、一歩退く。
 同情で手段を手放すなんて、シャムロックらしくない。
 目的を思い出すべきだ。

 自分がしっかりしてないと、ハウィスは護れない。

「ミートリッテさん」
「はい」
「人は、一人きりでは生きていけません」
「……はい」
「ですが。心であれ、物であれ、誰かと寄り添うことに対価を求めるのは、大きな間違いです。それは相手への信頼とは違う。挟んだものへの依存だ」
「……すみません。意味が解らないです」

 信頼と依存?
 何の話だ?
 またしても真剣な顔になった神父の言葉に、眉をひそめる。

「貴女は愛されている。応えようとする気持ちも見受けられます。しかし、本当の意味では受け止め切れていない」

 彼は何が言いたいのか。
 不審感で顔を歪めるミートリッテに、アーレストは至上の微笑みを浮かべ

「指導が必要かも知れませんね。良いでしょう。では、ミートリッテさん」
「はい?」

 唐突に。
 どデカい砲弾を投げつけてきた。


「貴女を、アリア信仰に入信させます」



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