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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 8
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 「ですから」
 これまでに無い経験で挙動不審に陥ったミートリッテの顔を、アーレストの大きな両手が包む。
 「落ち着いてください。私の目を見て。……良いですか? 私は貴女を責めていません。謝られる必要も感じません。そんな風に頭を下げられても、私には何を反省されているのか解らないので、却って困ります」
 「っ!」
 綺麗な顔が、真剣な表情で真っ直ぐ見ている。
 整った容姿が間近で放つ迫力と言葉に気圧されたミートリッテは、瞳を真ん丸にして立ち竦んだ。
 「私に抱き付いたのは、微睡んで親しい方と間違えてしまったから。でしたらそれは不埒な行いではありませんよ。不用意だとは思いますが、地に額を擦り付けるほどの反省を要するものではない。相手が何者であれ男を警戒してしまうのも、女性の身であればごく自然な防衛本能です。特に貴女のように可愛らしい方なら、日頃から異性関係の話で心労が絶えないでしょう?」
 いや、ですからね? その軽口が、こっ恥ずかしい自意識過剰系勘違い暴言の素だったんですけど。
 と、真剣な表情を崩さない神父にはなんとなく言い難い。
 「貴女が何を其処まで思い詰めているのか……詳しく話していただけない限り、以後お気を付けて、としか言えないのです。ご理解ください」
 謝罪は程々にしろというお説教か。
 確かに、今のは神父に非礼を詫びている感じではなかった。勢いで喚いていただけ。
 誠意が欠けた謝罪なんてきっと、されるほうがいい迷惑だ。
 アーレストの瞳にみっともない女の姿を見て、沸き立った全身の血がすーっと冷えていく。
 「……すみません。勝手に騒ぎすぎました」
 アーレストはきょとんとして……優しく微笑んだ。
 「貴女は、見た目以上に内面が綺麗なのですね」
 「は?」
 「失礼します」
 ふ……と、顔を寄せて何をするのかと思えば
 「…………はいぃー!?」
 両の目元に軽く口付けられた。
 ゆっくり離れた彫刻の笑みに、くわっと目を見開く。
 「な、なな、なに……!?」
 「このままでは、ただれてしまいそうです」
 「は!? え!?」
 「涙で」
 自身が着ている服の袖を摘まんで、戸惑うミートリッテの目尻をそっと撫でる神父。
 どうやら自分は眠りながら泣いていたらしい。何故……と考えて、答えは直ぐに出た。
 (この人が悲しげに笑ってた所為だ)
 親友達の話をしていたアーレストを見て、迂闊にも彼と自分の過去を重ねてしまった。
 生きてるか死んでるかは別として、親しい者に会えなくなるのはとても辛い。ミートリッテは別れの悲しみを知っている。どれだけ優しくされても埋められない空白を知っている。
 だから、アーレストの笑顔に会えない寂しさが触発され、引き摺られた記憶が落ち込んだ。
 そんな場合じゃなかっ
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