欲に惑うも歩みは変わらず
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なるほど……少しの汚れも劉備には似合わないってことかね」
「戦をしない人間、悪と見なせない人間には手を出せないのがあっちの弱みだもん。ボク達が武器を持たない限りあっちは手を出せない。自分達の首を自分達で絞めてるんじゃないかしら」
小さく鼻を鳴らし、彼はまた空を見上げた。
「えーりんには敵わんな」
「よく言う……あんただって同じこと考えてたでしょ?」
「いんや? 疑うのが俺の本質だ。俺達三人だけで行動しようなんて大胆なこと考えないよ」
「ふぅん。徐晃隊の予防線をあれだけ張っておいて?」
指摘は鋭く、ジト目で責めるように向けられる。しかし彼はどこ吹く風。猪々子に視線を落として苦笑を一つ。
「俺達三人でってのは本当に考えて無かったさ。ただ、あいつらバカ共に任せるくらいしか俺には思い付かないだけで。漢中に着けばコトが進むように手を打ったってこったな」
「そんなめんどくさい方法取らなくても、別に細かくわけないで向かってきた奴等を叩き潰せばいいだけじゃねーの?」
むぅ、と唇を尖らせての発言を受けて、詠が大きくため息を吐き出す。くつくつと喉を鳴らした彼はそれでいいと頷いた。
「あんたってホンット猪」
「む、バカにしやがって」
「そりゃするでしょ。二千程度で総数不明の軍とぶつかるなんて愚の骨頂じゃない。徐晃隊は万能じゃないしこんな無駄な所で数を大きく減らすのなんてバカげてる」
「まあ、そうだが。クク……それくらいの気概でいる方があいつらにとっても丁度いいと思うがね」
「にししっ♪ だろ? やっぱアニキは分かってんなぁ」
「はぁ……褒められてないわよ、猪々子」
緩やかに時が流れる。風が優しく頬を撫で、彼らはゆったりと進む。
不意に、詠はこうして近くで秋斗をほぼ独占出来る機会が無くなることに気付く。
帰れば雛里も月も居る。華琳達と居る時間も多くなるのは間違いなく、益州で過ごしていた間のような時間を共有することは極端に減るだろう。
それが少し、寂しく感じた。欲だとは分かっているが、それでも。
――もうちょっと……もうちょっとだけ、秋斗と過ごす時間が欲しい……。
戦前に余計なことを考えて、と自分を責めたくなる。ただ、今の彼が消えてしまうかもしれないと不安を抱いているからか、切なく甘い胸の痛みは焦燥に心を逸らせる。
猪々子とふざけ合って笑う彼の横顔を見つめながら僅かに唇を噛んだ。
「……秋斗」
「ん? どうした?」
真名を呼べば、いつも通りに黒瞳が向けられた。
優しい声音が耳を通る。昔と同じ、変わらない声が。
「何か、ちょっとでも……思い出したこととか、無い?」
戻ってほしいのに戻ってほしくない曖昧で不確かな気持ちを誤魔化す為に、記憶喪失についての質問
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