あの軍師 〜小さいおじさんシリーズ4
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薄く西日が差し込む四畳半の一部屋に、小さく背を丸める3人の影が落ちる。しゃわしゃわと重なる何かの蝉の声が、薄暮の部屋を満たしていた。…3人を、押し包んでいた。座布団の代わりになれば…と百均で購入した草の蔓で編んだようなコースターは思いのほか重宝されているようで、傍らに脇息代わりにキャラメルの空き箱を置いて寛ぐのが常となっている。
俺の部屋に時折現れる、3人の小さいおじさんは、神妙な顔で猫ちぐらを見守っていた。
「……で、何なのですかあの男は」
そう呟いて、白頭巾が羽扇を軽く動かす。残暑厳しい8月の末とはいえ、冷房はキンキンに利かせているのだが…。あれは癖のようなものなのだろうか。
「出てくるなり死にそうな顔色で人の居間を勝手に占拠…不躾にも程がありませんか」
お前が言うな。言いかけた言葉を飲み込む。こいつらは俺を『居ないもの』とみなしているのだ。
「ま、そう云ってくれるな」
豪勢な紗の衣装を纏った小男が、とりなすように言った。どうやら猫ちぐらに籠っている客人は、豪勢の知り合いらしい。
「それです」
羽扇でぴしりと豪勢を指す。
「一国の丞相ともあろう貴方が」
言いかけて、徐に羽扇を口元に戻す。この男は、いちいち無意味に芝居かかった動きをする。
「…過分な情を示すあの男は何なのです」
「だから云ってくれるな。…ああ見えて出来る男なのだ。ただ…なぁ」
肩をすくめ、豪勢は横で苦虫を噛潰したような顔で押し黙る端正な顔の男に視線を送る。この傲岸不遜な男が、珍しく他人にフォローを求めているようだ。ほんの数秒、疎ましそうにフォロー要請を無視していた端正は、遂に観念して大きく息をついた。
「――上司を見る目がない、運が悪い、タイミングが悪い。そういう男だ」
「そう!そうなんだよな!肝心なところで情に流されて判断を誤るところがある、そういう男なのだ!」
我が意をえたりとばかりに豪勢が膝を打つ。
「…ま、そこは卿の買い被りとは云えぬ。あの男がなければ、呂布のような癖の強い男があそこまで永らえることはなかっただろうな」
端正もあっさり同意する。白頭巾はふん、と鼻を鳴らして猫ちぐらを忌々しげに睨み付ける。居場所を占領されたことが余程業腹なのだろう。白頭巾はしばしば、とても利己的な理由で人を嫌う。
「ふぅん…私、呂布が生きていた頃なんて、ほんの小童ですからね。阿呆に殉じた木っ端軍師のことなど、ふふ、存じ上げませぬ」
「てめぇ木っ端とか云うな!!」
豪勢が語尾にかぶせる勢いで怒鳴った。猫ちぐらから、苦し気な忍び泣きが漏れ聞こえてきた。
「貴様…曲がりなりにも伝説の豪傑を阿呆呼ばわりとかな…もうな…」
端正も軽い苛立ちを示して眉を顰める。端正は機嫌が悪そうにしていても端正さが増すなぁ…などと、ぼんやり考える。
「あの人
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