第五十五話 強かな男の狙い
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た。陛下はゴールデンバウムの血を引いていないのです」
ベルンハイム男爵が首を横に振って答えた。また皆が凍り付いた。
「ご苦労でした。ベルンハイム宮内尚書。質問は有りませんか」
最高司令官の言葉に男爵がノロノロと椅子に座った。そのまま視線を避けるかのように俯いている。誰かがゴクッと喉を鳴らす音が聞こえた。どう受け取れば良いのか分からないのだろう。最高司令官閣下も無言のままだ。多分、皆の反応を確認しているのだろう。
「その、よく分からんのだが、このような場合どうなるのかな。宮内尚書、御存じなら御教示願いたい」
困惑しながら宮内尚書に問い掛けたのはオスマイヤー内務尚書だった。ベルンハイム宮内尚書が顔を顰め大きく息を吐いた。多分、宮内尚書という職に就いた事を今ほど後悔した事は無いだろう。
「このような事は前例が有りませぬ。どうなるかと言われても……、お答えしかねます」
「しかし卿はこの問題を一番最初に知った筈。如何すべきかも考えたのではないかな」
内務尚書の問いに何人かが頷く姿が見えた。宮内尚書がまた顔を顰めた。本音を言えば知った事かと言いたい気分だろう。
「本来であれば畏れ多い事では有りますが廃立され新たな皇帝が即位されるべきだと考えます」
何人かが頷いた。そして三人の皇族が身体を強張らせるのが見えた。新たな皇帝は三人の家から選ばれるだろう。だがその事を喜べない現実が有る。三人はそれを理解している。
「現時点で廃立は考えていません」
「……」
静かな口調だった。だが最高司令官閣下の言葉に誰も反駁しない。ただ何人かが顔を見合わせたのが見えた。“現時点で”、意味深な言葉だ。最高司令官は廃立を否定はしていない。
「文武百官が陛下の御即位を寿いだのです。それに陛下の御即位に伴い内乱が発生し大勢の人間が犠牲になりました。今更あれは間違いでした、新しい皇帝をとは言えません。ですがこの事実は公表します」
今度は閣僚の殆どが顔を見合わせた。物問いたげな視線を最高司令官閣下に向けている。
「良からぬ者が陛下を利用しようとするかもしれません。例えば陛下を誘拐して新たな政府を樹立する。それによって現政府に反対する人々を結集する」
ざわめきが起きた。なるほど、最高司令官に反発する人間、特にゴールデンバウム王朝に忠誠を誓う人間なら行う可能性は有る。伯爵令嬢が大きく頷くのが見えた。
「私の顔を潰すという意趣返しの意味でも行うかもしれません」
「……」
「しかし陛下がゴールデンバウムの血を引いていないなら誘拐の対象にはなりません。至って安全です」
酷い言い方だ。要するに皇帝なんか誰でも良い。でもゴールデンバウムの人間が皇帝だと誘拐されるかもしれないから別な人間を皇帝にしておこう、そう言っている。閣僚達も頷いてはいるけど複
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