外伝「鈍色のキャンパス」
W.Passacaglia
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…遠距離恋愛は出来ない性格なんでしょ?」
立て続けに言われたため、俺は狼狽えてしまった。無論、日記にはそれを示唆する箇所はない。なのに…笹岡の母親は、それを簡単に見抜いていたのだ…。
「ご免なさいね。こんなこと聞くなんてどうかと思ったのだけど、息子が…博がどんな女性を好きだったのか知りたかったんです…。」
彼女は淋しげにそう言った。そんな彼女を見て、俺は千春のことをポツリポツリと話始めた。
「彼女…千春は、とても活発な女性で、誰からも好かれていました。彼女の周りでは常に人がいて笑いが絶えない…そんな女性です。彼女は音楽だけでなく、語学や運動も好きで、色々なことに挑戦するタイプの女性ですね。」
「ボーイッシュ…と言って良いのかしら?」
「そうですね。でも料理は苦手で、付き合ってた頃は俺がずっと作っていた位で…。あ、これは余計な話でしたね。」
「いいえ…それも息子は知っていたと思います。千春さんの名前が出てくるのはお二人が別れた後からですし、きっと息子は…お二人の幸せを望んでいたんです。」
彼女がそう言った時、不意に河内が俺の所へときて言ったのだった。
「京、ここにいたんか。さっき宮下教授がお前のこと探してたぞ?」
それを聞いた笹岡の母親は、直ぐ様席を立って俺へと言った。
「長々と失礼致しました。今日はお話を聞けまして、本当に良かったと思います。またいつかお願い出来ますか?」
「勿論です。僕なんかで宜しければ、いつでもお越し下さい。」
俺がそう返答すると、彼女はどこか淋しげな笑みを見せて一礼し、そのまま立ち去ったのだった。
「京、あの女性は?」
「笹岡の母親だよ。」
俺がそう答えると、河内は一瞬硬直した。まぁ…そうだろう。笹岡に憎まれていたこの俺に、その母親が会いにきた…なんて、普通では考えられないからな。
「何話してたんだよ。」
「私的なことさ。あの事より、寧ろその前のことかな…。」
俺がそう言うと、河内は「は?」と言って首を傾げたが、俺はそれ以上を口にせずにその場から離れたのだった。
しかし…この時、既に笹岡の手の内にあることなど知りようもなかった。
笹岡の死は、単なる幕開けに過ぎなかったのだ…。
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