暁 〜小説投稿サイト〜
藤崎京之介怪異譚
外伝「鈍色のキャンパス」
W.Passacaglia
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
らのものになると、そこへ一人の女性の名前も一緒に登場するようになり、俺は目を見開いた。
 その女性とは…俺が以前付き合っていた女性だったのだ。
 彼は最初、俺と彼女については好意的に書いていたのだが、ある日付を境に、そこに憎悪が混じり始めた。
「彼は…千春が好きだったのか…。」
 千春とは、先に話した彼女のことだ。
 磯部千春。彼女と俺は高校で知り合い、高二の秋から付き合っていた。だが、大学へ入って半年して別れたのだ。その理由は…彼女がイタリアへと留学を決意したためだ。俺は彼女の足枷にはなりたくなく、そして…遠く離れてしまうことに悲嘆し、俺から話を切り出した。だが、彼女は笑いながらこう言ったんだ。
「帰ってきて京ちゃん彼女がいなかったら、また彼女になって良い?」
 俺の心を見透すかの様な彼女の笑顔とその言葉に、俺は逆に救われた気がした。それが彼女…千春の人柄なのだ。
 その時以来、日記の内容は徐々に悪意を増していき、それが憎悪に変わるには然程時間は掛からなかった。最後にはとても読んでいられず、俺は途中で日記を閉じてしまった。

そうか…原因は千春だったのか…。

 コンクールでもなければ父親のことでもなく、一人の女性のことであれだけの憎悪を…。
 俺は深い溜め息を吐いた。まさか…こんなことになるとは予想出来ようもないが、自分の判断がよもやこんな結果を呼ぶとは…。
 俺がそう考えていると、横に座っていた笹岡の母親が口を開いた。
「私は母親でありながら、息子が何を考え誰を好きだったのか全く知りません…。この日記を読んで、やっと気付いたんですから…母親失格です。」
「そんなことはありません。それを言ったら、僕の両親も同じです。いつも世界を飛び回り、家には全く寄り付かないんですから。」
 俺がそう返すと、彼女は首を振って言った。
「いいえ。貴方の御両親は、いつもインタビューで貴殿方のことを語っています。その点私は…手紙一つ書いたことも無く、まして息子を弟へ預けるなんて…。」
 そう言った彼女の顔には、後悔の念が滲み出ていた。息子との時間を作らなかった自分への後悔…それだけではないにせよ、恐らくは自分自身を責め続けているのだろう。
 重々しい空気の中、俺と彼女は暫く黙っていた。俺もどう言って良いか分からないというのもあるが、たとえここで何を言ったとしても所詮は他人事なのだ。下手に慰めるよりは黙っていた方が良いと思った。
 暫くして、この重い沈黙を破ったのは彼女だった。
「千春さん…でしたか。彼女は、どういう方なんですか?」
 俺は趣旨の違った問い掛けに、些か言葉に詰まってしまった。確かに、俺は千春のことは良く知っているが、なぜそれを俺に問うんだ?この日記には、俺が千春を振ったことが書かれてるのに…。
「藤崎さん。貴方
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ