外伝「鈍色のキャンパス」
W.Passacaglia
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誰に怒りをぶつければよいか分からず、その哀しみを癒す術を知らない。そんな風だったと宮下教授が言っていた。
「君が…藤崎京之介さんですか?」
彼の葬儀から一月ほど経ったある日、一人の女性が俺を訪ねてきた。
「はい…そうですが。貴女は?」
全く見知らぬ女性だったため、俺は訝しく思いつつ言った。穏和そうな女性ではあるが、なぜ俺の名前を知っているのか…?
そんな俺の考えが伝わったのか、その女性は苦笑して言った。
「名も名乗らずに失礼とは思いましたが、先程宮下教授から教えられたばかりでしたので。私は笹岡博の母です。」
女性はそう言って微笑みながら自己紹介をしたが…俺はそれを聞いて体が硬直してしまったのだった。まさか…笹岡の母親がこんなところへ、しかも俺に会いに来るなんて…。
「そう身構えないで下さい。急に押し掛けて無礼とは承知しております。今日会いに参りましたのは、貴方に謝まるために来たのです。」
「謝る…?」
俺は、笹岡の母親が言っている意味を理解しかねていた。
確かに、俺は笹岡に敵意を持たれ憎悪をぶつけられてはいたが、これといって特に害はなかった。そのため、謝られる理由が見当たらないのだ。
「どうしてですか?私は貴女に謝られるようなことは無いと思いますが…。」
「そうですね…何からお話しすべきでしょうか…。」
彼女はそう言うと暫し俯き、そして徐に一冊の本をバッグから取り出した。
それをよく見ると、その表紙には金文字でDiaryと書いてあり、それが日記だと解った。
「これは…息子の日記です。私はこれを読んで、貴方に会わねばと思ったのです。会って謝らなければと…。」
そう言って彼女は、その日記を静かに俺へと差し出した。
「読んで…頂けますか…。」
俺は躊躇した。さすがにこれはプライベートなものであり、自分に関した事柄だけを抜き取って…というわけにもいかないのだ。
だが、俺は少し考えて後、それを受け取って表紙を開いた。きっとそこには、彼…笹岡が自殺した理由が記されているからだ。そして…俺への憎悪の理由も…。
表紙を開き目に最初に飛び込んで来たのは…俺だった。
「これは…。」
それは中学時代、とあるコンクールで一位入賞した時の新聞記事の切り抜きだった。そのコンクールは、笹岡が一緒に出ていたものより前のもので、この事から笹岡は以前から俺を知っていたことが窺えた。
その先へ頁を進めると、それが十年日記だと分かった。1日分が数行しかなく、最初はさして他愛もない事柄で埋められていた。
俺は少しずつ跳ばしながら読んでいたが、ある日付から俺のことが書かれるようになって行く。
そこには俺への賛辞が綴られ、例のコンクールについても俺を絶賛しているのだ。それに俺は戸惑いを隠せなかったが、日付が大学に入ってか
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