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藤崎京之介怪異譚
外伝「鈍色のキャンパス」
W.Passacaglia
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「笹岡が…失踪した?」
 演奏会から十日ほど過ぎたある日、俺は大学に行って鈴木から笹岡の失踪を聞かされた。と言うより、その日は大学内がその噂でもちきりだった。
「なぜだ?彼に失踪する理由なんてないと思うが…。」
「俺だって分かんねぇけどさ。ただ、俺が朝早くに来てみると、教授達が集まって話してんの聞いたんだ。どうも…先週の演奏会の翌日から連絡取れないなしいぜ?」
 俺は唖然とした。
 確かに、演奏会以来彼を見ていない。いや、俺が演奏会に出る前から…そう、あの憎悪のこもった言葉を聞いてから会ってはいないのだ。
「だが…なんでこんなことに?確かに彼は変わってたが、この大学では珍しい程じゃないだろ?姿を隠す必要もなし、今までだって…」
 俺がそこまで言った時、不意に小林に声を掛けられたために会話を切った。すると、小林は徐に白い封筒を俺へと出して言った。
「今さっき、門の前でお前にって預かったんだ。」
「誰に?」
「小学生くらいの男の子だった。お前のファンじゃないのか?」
 小林…何だか不貞腐れてる気がするが、それは無視することにしよう…。
 俺は封筒を丁寧に開封すると、中の手紙を取り出して読んだ。
「田邊君…ねぇ。全く知らないなぁ…っと、ここを見学したいだと?」
「なぁ…こいつ、まだ小学生なんだろ…?」
 俺の呟きに、隣にいた鈴木がそう言った。まぁ、鈴木の心配も分からんじゃないが、せっかく音楽に興味を持ったんだから見学くらいさせたい。今日は少し騒がしいが、これがずっと続くわけでなし。
「京…まさか見学許可取る気じゃないだろうな…。」
 今度は小林が心配気に聞いてきた。こいつは田邊って少年を見てるからなぁ。
「良いんじゃないか?小学だろうが中学だろうが、興味を持ってるんだったら充分じゃないか。」
 俺が小林に言葉を返そうとした時、不意に後ろから声がした。
「河内…いつから聞いてたんだ?」
「さっきからずっとだ。ま、気付かれないようにしてはいたがな。」
 河内はそう言って笑った。ってか、何で気付かれないようにする必要があったんだか…。
「でもよぅ…教授が許可するか?この大学受ける保証もないしさ。一般解放だってごく一部だし、見学ってったら全部回りてぇんだろ?」
 鈴木が半眼でそう言ってきた。すると、それに小林が後を続けた。
「そうそう。それも小学生じゃ将来見据えて…って訳じゃなさそうだしな。」
 二人の言い分も分かる。だが、俺はこの少年の願いを叶えてやりたいと思ったんだ。たとえ今だけにしろ、夢を持つ持たないで将来も変わってくる。それに、目標が出来るのは大いに結構なことじゃないか。
「京。もうお前の中じゃ決まってんだろ?なら行動しろよ。」
 考え込んでいる俺に、河内が笑いながらそう言った。俺はその一言で、自分のすべ
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