外伝「鈍色のキャンパス」
V.Sarabande
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のだと思うんですが…。」
「それでは駄目だったんじゃ。父が源二であることを知られてはな。だから、息子には最初からオルガンを教えたんじゃ。源二はオルガンも演奏しとったからな。あまり知られとらんがの。」
「それは初耳ですね…。源二氏はピアノの録音しか残してませんから。」
俺が驚いたのを見てか、俺のその言葉には吉田氏が答えた。
「笹岡源二はね、最初はオルガニストになるつもりだったのよ。だけど…ペダル鍵盤のあるオルガンはね、彼には使えなかったの。」
「なぜです?」
「彼…生まれつき左足が不自由だったの。単に歩くだけならまだしも、走ったり重いものを持ち上げたりは出来なかったそうよ。だから…ピアノに変えたと聞いたことがあるわ。」
「でも…オルガンから変更するのであれば、むしろチェンバロの方が…。」
俺は自分の考えをそのまま口にした。
オルガンの鍵盤はピアノより軽い。それはチェンバロも同じで、鍵盤自体の幅もピアノより狭い。だから俺はそう考えたのだ。
俺の言葉を聞くや、吉田氏は苦笑混じりにそれに答えた。
「居なかったのよ。彼の周囲に教えられる人物がね。尤も、その村にはチェンバロもなかったし、彼がオルガンを触らせてもらっていた教会にピアノがあったからそうなったようね。」
そんなことが…。これは世間の知らない事実だ。
しかし…それが笹岡が俺を憎む理由とは考えられない。俺は彼の父に会ったことはないのだ。そうすると、彼は俺の何に対して憎悪しているのか…?
笹岡は…いつから俺を敵視していたんだ…?
同じ大学の同じ学科にあるとはいえ、彼とまともに話したことは一度もない。彼だって俺と同じく推薦で入ったのだし、彼自身は最初から樋口教授に師事していたと聞いている。
だから…俺には彼の憎悪が理解出来ないでいるのだ…。
「藤崎君。私、出るからね。」
吉田氏の声にハッとして顔を上げると、吉田氏は既に楽屋を出るところだった。
「頑張って下さい。」
「勿論よ。」
俺の言葉に振り返ってそう答えると、彼女は微笑みながらコンソールへと向かった。
彼女が出て行った後、今度は宮下教授が口を開いた。
「藤崎君、彼のことを考えるのはよそう。今は演奏のことに集中するんじゃ。」
「そう…ですね。僕が一番の有名曲を演奏させてもらえるんですから、より良い演奏が出来るようにしなくてはなりませんね。」
「そうじゃよ。彼のことはわしもおるし、少しずつ解決すれば良い。じゃが、この演奏はここで終わる。だからこそ大切にせねばの。」
「仰る通りです。今は…音楽だけを考えます。」
その後に言葉は続かず、俺と宮下教授はホールから響くオルガンの音だけを聴いていた。用意された客席はいつも通り満員だ。その人達も、今はオルガンの音色に耳を傾けている。
俺はそこに響
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