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藤崎京之介怪異譚
外伝「鈍色のキャンパス」
V.Sarabande
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曲で三十分だ。
 本当は宮下教授がバッハを演奏する予定だったが、出演が俺に変更になったために変えたのだ。世間では無名の俺に、バッハの有名曲を譲ってくれたと言っていいか…。
「藤崎君。君、樋口教授に笹岡君のことで何か言われたじゃろ?」
「…はい。ご存知だったんですか…。」
 暫くして、宮下教授がいきなり聞いてきたため、俺は思わず本当のことを答えてしまった。まぁ…黙っててもいずれ分かるだろうしな…。
「まぁの。樋口教授の心配も理解できるし、君に頼んだのも頷ける。じゃが…笹岡君のあれは、彼自身で解決せねばならん問題なんじゃ。」
「それは…解っています。ですが何であれ、僕が彼に憎まれているとすれば、自然に解決するのは困難だと思ったんです。僕はただ、彼が自身の力を純粋に伸ばしてほしいと思ってますし、彼には彼の才能があるのだから…。」
 俺がそう答えると、宮下教授は溜め息を洩らして椅子へ腰掛けた。
 その時、横で話を聞いていた吉田氏が宮下教授へと問い掛けた。
「先生…笹岡って、まさかあの笹岡源二の?」
「そうじゃ。やつの息子じゃよ。」
 二人の言葉に、俺は些か驚いた。そのため、俺は宮下教授へ確認のために問った。
「笹岡源二って…ベートーヴェンで定評のあったピアニストですよね?」
「…そうじゃ。八年前に自ら命を絶ってしまったがの…。」
 やはりか…。彼の名前には記憶があったのだが、まさか…笹岡博の父親だったなんて…。
 笹岡源二。弱冠十歳でベートーヴェンのピアノ・ソナタで様々なコンクールに優勝し、一躍有名になった。十二歳でベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏で世間を圧倒し、特に"テンペスト"と"ワルトシュタイン"の各ソナタは絶賛されていた。二十歳でフルーティストの下村愛花と結婚して幸福な家庭を築いたが、二十八歳の時に事故に遭って右手を傷めてピアニストを引退したのだ。
 彼には子供が一人いたが、彼は子供のことを話すことはなく、息子か娘かも分からなかった。それは自分の子供が自分自身と比べられたり、または七光りで音楽家になったりすることを嫌ったためだと言われている。
 笹岡源二は引退後、長らく世間に姿を見せなかったが、一説には海外で子供の教育をしていると言われ、母親である愛花氏も同時期に演奏活動を停止している。尤も、これは飽くまで推論であり、事実がどうであったかは分からない。
 だが、まさか笹岡源二の子があの笹岡博だったとは考えもしなかった。俺が知っている笹岡は、少なくとも五人はいるからだ。それに、ピアニストの父を持ったのであれば、当然ピアノを学んでいた筈だ。だが、彼はオルガン以外に触れていないのだから、ピアニストの源二氏には結び付けられなかった。
「宮下教授…なぜ笹岡はピアノではなくオルガンを?父と同じピアノだったら直ぐに分かりそうなも
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