外伝「鈍色のキャンパス」
U.Allemande
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あの声…ライバルに向けてと言うより、むしろ仇敵に対しての憎悪と言った方がいいかも知れない。
何故…あれ程の憎悪を向けられたのか、この時の俺には理解出来なかった。
怪訝に思いながらも、俺は歩き出した。ここで考えていても仕方無いのだから。ただ…今は静かに待つしかない。
暫く歩くと食堂があり、そこにある自販機へと歩み寄った。俺はそこで珈琲を二本と、河内に頼まれた紅茶を買った。一本は直ぐに開けて口をつけ、二本は持ってきた袋に入れた。
食堂からは中庭が見え、そこには四季折々の花ばなや木々が植えられているため、美しい景観を楽しむことが出来る。
俺は休憩がてら暫く景観を楽しんでいると、不意に背後から声を掛けらた。
「樋口教授…何かご用ですか?例の件なら…」
「いや、そのことじゃないんだ。あれはそう単純には行かないからねぇ。今声を掛けたのは、別の用件があったんだよ。」
「別の…ですか?」
俺は首を傾げた。俺は宮下教授に師事しているため、樋口教授が笹岡以外のことで用があるとは思えなかったのだ。
「どんなご用件でしょうか?」
俺がそう問うと、樋口教授は微笑みながらこう言ったのだった。
「今度の大ホールで行うオルガン演奏会なんだが、君に出てほしいんだよ。」
「はい!?それって確か…宮下教授と大西教授、それに外部からの客演で決まっていますよね?」
「それが困ったことに、大西教授が腱鞘炎で出れなくなってねぇ…。その代役に、大西教授が君を指名したんだ。」
「…はぁ?」
あまりのことに、俺は間の抜けた返事をしてしまった。
大ホールでのオルガン演奏会は、大学の設立当初から行われている伝統ある演奏会なのだ。毎回外部から優れたオルガニストを招くことや、大学の教授自らの演奏が聴けることなどが挙げられる。
まぁ、宮下教授ほか計三名のオルガン科の教授は、皆世界的コンクールでの優勝経験があり、無論コンサートもしているしCDも出している。目の前の樋口教授がその一人なのだが…。
「樋口教授…それは無理な相談ですよ。大西教授だって、それは分かっているはずですが…。」
「それを承知での指名だ。確かに、この演奏会で現役学生が演奏したことは過去に例がない。だが、大西教授が言うには、君にはもう優勝の経験が幾つもあり、人前で演奏するに足る力があると推薦してくれたからね。」
「ですが…宮下教授はなんと仰っておられるんですか?いくらなんでも…」
「わしは構わんぞ。」
俺が何とか辞退出来ないかと四苦八苦していた時、そこへ宮下教授が姿を見せたのだった。
「宮下教授!これは伝統ある演奏会なんですよ?私の様な学生ごときが…」
「いやいや、君の演奏はプロとして申し分無い領域に達しておる。今君に教えていることとて、もはや演奏解釈だけなんじゃからな。ここで一つ、人
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