外伝「鈍色のキャンパス」
U.Allemande
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協奏曲だったと考えられ復元もされているが、他人の作だったのではとの指摘もされている。ま、俺は真作と考えてそれを曲げる気はないが。
もう一曲のブランデンブルグ協奏曲第5番は、ソロ楽器にフルート、ヴァイオリンとチェンバロの三つの楽器が登場する。この編成は三重協奏曲イ短調と同じだが、こちらは華やかなニ長調で、世界初のチェンバロ協奏曲とされる作品だ。
二曲とも第1楽章だけだが、双方共に長大な作品で、一曲約七〜九分程度の時間を要する。これだけ大きな協奏曲はこの時代、バッハ以外にはあまり見掛けない。軽く聴ける協奏曲が好まれていたためだ。1楽章が三〜五分程度が主流だったが、バッハはそういった概念を端から壊し、それを新たな形へと変えていったのだ。ま、大作<マタイ受難曲>ではかなり非難されたようだが…。
さて、俺はこの時、宮下教授の薦めでリュートで参加した。チェンバロ協奏曲の通奏低音にリュートが入る…あまり聞かないな…。尤も、この時の通奏低音が河内一人だったため、敢えてそうしたのだろう。
「鈴木君。もう少し自由な装飾を施しても良いね。小林君のトラヴェルソも、折角装飾を付加出来る自由さがあるのだから、もっと積極的に演奏すると良い。宮部君も合奏だからと言って淡々としない。合奏は確かにソロより地味だが、それなしに音楽にはならんのだから、もっと自信をもって演奏するように。この演奏は七十点と言ったとこじゃな。」
宮下教授はそう言うと、笑いながら席を立った。
「有り難う御座いました。」
立った宮下教授に、俺達はそう言って頭を下げた。
「君達との演奏はとても楽しかった。またやろう。」
宮下教授はニコニコしながらそう言って、その場を後にしたのだった。
「藤崎と河内は何も言われんかったな…。」
「ま、あんだけの演奏すれば言われんだろ。ヴィオラの吉泉だってそうだしな。」
小林と鈴木が愚痴を溢している…。だが、そんな二人に松本が不貞腐れた様に言った。
「二人は言われただけマシでしょ?私なんか見てるだけよ?チェンバロ協奏曲第6番だったら良かったのに!そうすれば小林君と私が二本のブロックフレーテを受け持てば…。」
この後、彼女の愚痴は延々と続くため省くとして…。それを聞いている二人には悪いが、俺は苦笑しつつ部屋を出た。飲み物を買いに行こうと思ったのだ。それを河内が目敏く見つけ、扉を開く前に「紅茶買ってきて!」と言われ、俺は「分かったよ。」と返事して出たのだった。
部屋を出てすぐ、目の前から笹岡が歩いてきた。今あまり会いたくはない人物だが、俺は表情を表に出さずに通り過ぎようと彼と擦れ違った時、笹岡は呟くようにこう言った。
「お前の全てを壊してやるよ…。」
俺はそれに驚いて振り返ると、もう笹岡はいなくなっていたのだった。
「何なんだ…。」
笹岡の
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