外伝「鈍色のキャンパス」
I.Ouverture
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」
俺は晴れやかな笑顔でそう言ってその場から離脱しようと試みたが…。
「京ちゃん…。」
俺が背を向けた途端、二人がそう言って俺の肩をガッシリと掴んだのだった…。
「おい、放せよ!」
「ダメだよ…親友置いてくなんてさぁ…。」
「全くだ…薄情な奴って言われるゼ…。」
俺は恐る恐る振り返って二人を見ると…それは正に死人の笑み宜しく、ニタリと笑ってこっちを見ていた。
俺はゾッとして何とか振り切って進もうとしたが、二人は俺の肩をガッシリ掴んだままズルズル引き摺られるように付いてきたのだった…。
どうにもならずにそのまま二つの荷物を引き摺りながらサークルへ行くと、もう音が聴こえてきていた。
「河内のやつ、もう来てるのか。」
肩にしがみついていた二人は、いつの間にやら復活して俺を押し退け、我先にとそこへ入っていった。こういうときだけは早いんだからな…。
「なんだかねぇ…。」
俺は苦笑混じりにそう呟くと、二人に続いて中へと入った。
「河内。それ、バッハの三重協奏曲だろ?」
入る前から響いていたチェロの音で、俺は直ぐに気付いて河内に言った。他二名はガサゴソと楽器の用意の最中だ。
「そうだ。今日はこれやりたくてな。」
「ってか、お前…この間もそれやったじゃんか…。低音のくせして、よくこれやりたがるよな…。」
俺は呆れ顔でそういいながら、荷物を置いてチェンバロの椅子に座った。
この三重協奏曲とは、フルート、ヴァイオリンとチェンバロのための協奏曲なのだ。主役は無論、三つのソロ楽器。河内のやるコントラバスやチェロは…あまり目立たないのだ…。
彼の場合、ヴィヴァルディやテレマンの方が断然良い筈だ。チェロ協奏曲やソナタなんかもあるし、コントラバスの活躍する作品も多い。
まぁ…バッハも無伴奏チェロ組曲があるが、あれはそのまんまのソロだし、カンタータのアリアなどでソロ楽器として活躍する楽曲もあるが…マイナーだしなぁ…。ってか、声楽がいないから無理だし。
「そんじゃ始めますか。河内のせいで暗譜してるし。」
鈴木がそういうと、隣に立つ小林がギョッとして言った。
「えっ!?俺…楽譜ないと無理だぞ?」
まぁ…いいんだけどさぁ…。
取り敢えず、俺達は演奏を始めることにした。周囲には他に四人来ていて、今日は合奏も揃っている。
この協奏曲は、全三楽章通して演奏すると約二十分は掛かる。調性はイ短調と暗く、どこか真冬の凛とした空気を思い立たせる。河内は、そんな所がこの協奏曲の魅力だと言う。
バッハの協奏曲と言えば、有名なブランデンブルグ協奏曲や二曲のヴァイオリン協奏曲、シュヴァイツァー博士が絶賛した二つのヴァイオリンのための協奏曲など、この三重協奏曲より華のある作品は多い。河内にしてみても、ブランデンブルグ協奏曲第6番の
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