外伝「鈍色のキャンパス」
I.Ouverture
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を越えている。君に対しても好敵手…と言うよりは、あれはまるで憎むべき敵…と言った風なのだ。」
樋口教授はそう言って溜め息を吐き、目の前の珈琲へと手を伸ばした。俺も珈琲を一口啜ってから、その教授の言葉に返した。
「それは気付いてました。ですが…何故あんなに敵視されるのかが分かりません。僕は彼とそう面識があるわけでなく、大学以前に会ってもないので…。」
俺がそう言うと、樋口教授はカップを置いて言った。
「藤崎君。君、中学の時にオルガンのコンクールに出場したよね?」
「はい…それが?」
「そのコンクールに…笹岡君も出場していたんだ。」
「え…!?」
俺は驚くしかなかった。だが…あのコンクールでは自分自身のことで手一杯で、他の出場者の名前や顔を覚えてる余裕なんて無かったからな…。
「そのコンクール、君は一位入賞だったね。笹岡君はね、二位なしの三位だったんだ。」
俺は過去の記憶を呼び覚ましていた。確かに、あの時は二位がなかった。しかし…やはり顔も名前も出てこなかった。
だが、あれは中学の時の話。まさかとは思うが、それを根に持って…なんてことはないよな…。
「まさか…笹岡君、それを今でも?」
「口に出してはないが、どうも原因はそれらしいんだよ。これが二位だったら別として、その年は二位をつけられなかったそうだしな。君の技量と他とでは差があり過ぎたためと聞いている。」
「いや…そこまでの差は無かったと思いますが。あの時僕は一杯一杯で、自分でどんな演奏をしたかも覚えてませんから…。」
「それでも…他者より抜きん出ていたそうだ。あのコンクールの審査員に大西教授が参加していたそうで、私が君のことを話した時、そのことを聞かせてくれたのだ。あの彼が絶賛していたよ。君の演奏はバッハを彷彿させるとね。」
樋口教授はなおもコンクールの話を続けていたため、俺は仕方無く口を開いた。
「教授…僕の話をしに来たわけではないですよね…。」
俺がそう言うと、樋口教授は苦笑いして話を元へ戻した。
「そうだったな…。それでだが、彼は今のままだと自身の精神に潰されてしまう。君も知っての通り、彼自身かなりの才を持っている。このままで良い訳がない。」
「僕も同感です。今の彼の演奏は、以前僕がしていた演奏の模倣…。それは分かってましたが、それで僕にどうしろと仰るんですか?」
「話し合ってほしいんだよ。君が彼を認めていると分かれば、彼は今までとは違ったアプローチが出来ると思うのだがね…。」
俺は戸惑った。確かに…俺が彼と直接話をすれば、何か打開策が見付かるかも知れない。だが逆に、この現状よりもさらに悪化させる可能性も秘めているのだ。
俺は俺自身で、自分の実力が他人をどうこう言える域まで達していないと考えている。こんな人間に何かを言われたら…俺だったらあ
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