外伝「鈍色のキャンパス」
I.Ouverture
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った。
俺の演奏については、試験を受けていた学生達も賛辞をくれたが、正直俺にはどうでもよかった。出ていった笹岡のことが気掛かりで、とても賛辞を受ける気持ちになどなれなかったからだ…。
全ての試験が終わってホールを出ようとした時、俺はやはり笹岡のことが気になって宮下教授を呼び止めた。
「宮下教授…笹岡君のことなんですが…。」
そう言って俺が近付くと、宮下教授は少し不機嫌な表情を見せて言った。
「…そのことか。だが、ここで話すことはない。あれは彼の問題じゃからな。」
「しかし、彼は…」
「くどい。笹岡君のことは、自身で解決するしかないんじゃ。我々がどうこう出来る問題ではない。彼が君を好敵手と見ていたのは知っとったが、まさか模倣するとは…正直考えとらんかったがの。」
宮下教授はそう言うや、それ以上話すことなく立ち去ってしまったのだった。俺も宮下教授を怒らせるのは躊躇われたため、仕方無く無言で見送ったのだった。
すると、そこへ試験官の一人だった樋口教授が来て言った。
「藤崎君。この後…少し時間を取れるかね?」
「はい…。この後は二時間ほど空きますが…どうかされましたか?」
「それなんだが…さっき君と宮下教授が話していたことでな。」
俺はそう聞いて思い出した。樋口教授は笹岡が師事している教授だ。そのため、俺は話しやすそうな場所へ移動しようと申し出ると、樋口教授は大学の外にある喫茶店へと俺を連れて行ったのだった。
まぁ…大学内で話すのも躊躇われるからな…。
「付き合わせて済まないね。遠慮せず、好きなものを頼むといい。」
喫茶店に入って席に案内されるや樋口教授がそう言ったため、俺は慌てて言葉を返した。
「いえ、別に休憩しに来たわけじゃありませんから。」
「遠慮せずと言っただろう。それに、何も頼まん方が不自然じゃないかね?」
そう樋口教授は言うと、そのまま店員を呼んでしまった。
俺は苦笑しつつ、仕方無く珈琲を注文した。すると、樋口教授は笑いながらショートケーキを二つ注文に追加させたのだった。
「君、甘いもの好きだっただろ?」
「よく覚えていましたね…。」
この樋口教授、実は俺が大学へ入る以前に知り合っていた人物だ。
俺が大学を見学に来たとき、最初に案内をしてくれたのが、この樋口教授だったのだ。宮下教授に俺を推薦してくれたのもこの教授で、頭の上がらない人物でもある。
注文の品が並べられるまで、俺と樋口教授は他愛ない話をしていた。
昼時を過ぎているせいか店内には俺達の姿しかなく、直ぐに本題に入っても良かったのだが…さすがに重いと感じたのか、本題に入ったのは珈琲とケーキがテーブルに並べられてからだった。
「彼ねぇ…自尊心がやたらと強く、私も手を焼いているんだよ。自尊心はなくてはならないが、彼はその度
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