last case.「永遠の想い」
〜epilogue〜
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ミサ曲だ。それも対位法さえ駆使している。今までだったら絶対に書かない作品なのだ。田邊君も俺の後ろから覗き見て驚いてる風だった。
「これ…」
「奏夜が言うには、今までに亡くなった方々のために作曲したそうですわ。レクイエムではなくミサにしたのは、死者だけでなく、生きる人々のためのものでもあるからだと言ってましたけれど。」
そう聞くや、俺は直ぐに納得出来た。このミサは…バッハと同じ歌詞によって成っていたからだ。
バッハのミサ曲ロ短調の歌詞は、通常のミサでは使えない。現在、研究者の間では統一された音楽ではなく、バラバラになっていた楽譜を纏めただけだという意見がある。だが、全体の第七曲と第二十七曲が同一音楽であることや、全体が三の倍数(三×九)になっていることからも、バッハが意図的に纏めたものであることは明らかなのだ。
奏夜の場合、バッハがロ短調(♯が二つ。全体を見ればニ長調が支配しているが。)に対し、ホ短調(♯が一つ。全体はト長調に支配される。)で書いていた。
ホ短調は暗すぎず、かといって明るい訳でもない。その平行長調のト長調は素朴な音色を持ち、そのト長調で書かれたグロリア以降の音楽からしても、その美しい響きは哀しみを包んでくれるように思えた。
「田邊君。このミサ曲、新しいホールで初演しても良いかな?」
「勿論です。是非そうして下さい。」
それを聞いた美桜は、何故かその目にうっすらと涙を浮かべていた。
「さて、時間だな。田邊君、行くよ。」
「はい。」
俺はそう言って席を立つや、美桜を見て言った。
「見てくだろ?」
「当たり前です!これを渡すために四苦八苦したんですから、最後まで見学させて頂きますわ!」
美桜はそう言って田邊君を連れ、俺より先に部屋を出た。
「お兄様!早くいらして!」
廊下から美桜が呼ぶ。それを制する田邊君のあたふたした声が面白く、俺は笑いながら「今行く。」と言って部屋を出たのだった。
三人でホールへ行くと、入り口付近でレディ達が何かの話で盛り上がっていた。
「だから、あのカフェの苺ショートが絶品なんだってば!」
「そうそう!私まだ一回しか行ったことないんだけど、海外で賞を貰ったパティシエがいるんでしょ?」
「えぇ!私も行きたい!場所どこ…」
時間なんてそっちのけで話すレディ達。
「お前達、準備は出来てるんだろうな?」
俺がそう声を掛けるや、レディ達はハッとして言った。
「バッチリです!」
こんなとこでハモらんでも良いんだが…。
俺達三人は苦笑したが、俺は仕方無しに言った。
「カフェなら今度連れてってやる。この録音が終れば、少し休めるからな。」
だが、これがまずかった。
「皆!先生が有名なカフェに連れてってくれるって!行きたい人!」
一人がそう大声を挙げるや、全
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