last case.「永遠の想い」
〜epilogue〜
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ています。」
その曲目を聞き、俺はハッとした。
三重協奏曲…フルート、ヴァイオリンとチェンバロのための協奏曲は、大学時代に亡くした友人が好んでいた作品。彼が亡くなる際、俺と陸はその場に居たのだ。そして…このミサ曲ロ短調…。二つ共、俺から切り離すことの出来ない作品だ。
「分かった。二日に分けないと無理だから、一日目に協奏曲集を、二日目にミサをやるので良いかな?」
「良いと思いますが…時間は平気ですか?最近のスケジュールは、かなりハードだと聞いてますが…。」
「心配ないよ。恩人の御両親の頼みなんだから、これくらいはね。」
俺がそう言って苦笑すると、田邊君は複雑な表情を見せながら返した。
「そんな風に思わないで下さい。僕は、先生が世に必要だから生きているのだと考えます。だからこそ、兄も先生を命懸けで助けようとしたんです。」
田邊君はそう言うと微笑みを浮かべて続けた。
「僕は兄の様な音楽の才能はありませんが、幸いにも、家業の建築関係の才能には恵まれました。大学を出たら家業を継ぎますが、こうして先生のレコーディングに参加出来たことは、僕にとっては誇りです。これさえ兄のお陰なんです。」
そう言い終えると、田邊は小さな溜め息を洩らし、開け放たれた窓から青空を見上げた。
「先生。実は…今回完成するホールなんですが、兄が設計したものなんです。」
「彼は…そう言ったものも遺していたのか…。」
「はい。様々な設計図がありましたが、演奏会用のホールが十棟分含まれてたんです。その中の一つを、父が思い出にと。」
俺は何も言えず、彼と同じように青い空を見上げた。
白い雲が疎らに漂い、時折そこへ小鳥が飛んで行く。何も変わらない青空。数万、数億の年月を見てきたに違いない。時代も人も変わり行く中、この空はただ見てきた。人の愚かさと…愛しさを…。
そう思った時、俺は不意に首に下げたあるものへと手をやった。ワイシャツの下になっているが、それは胸元へ確かにあった。
その俺の動作を見て、田邊君が淋しげな笑みを見せて言った。
「一緒にいて下さってたんですか…。」
「勿論だよ…。今でも彼は、私の一番の弟子で友人だからね…。」
俺が触れたものとは…陸だった。正解には、陸の遺灰から造られたダイヤだ。
「父も母も、きっと喜びます。まさか…そうして身に付けてくれてるなんて…。」
そう…これは半ば強引に渡されたものだった。本来ならば肉親が持つべきもので、俺が持っていて良いものじゃない。
だが、陸の両親は俺が持つべきと主張し、これを俺へと託した。
「僕は兄が好きでした。無論、両親もです。だから…兄が愛した人の傍にと。正直、兄が同性愛者だったなんてショックでしたけど、貴方の人柄や才能に触れ、僕は理解出来た気がします。同性愛者なんて、そんなのは人の一
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