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藤崎京之介怪異譚
last case.「永遠の想い」
Z 同日 PM3:41
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…。それに合わせるかの様に、メスターラー氏は聖書聖句を朗読し始めた。聖書そのものに興味はなかった筈だが、どうやら諳じているようで、彼は淀みなくそれを口にしていた。
 奴はその中にあって、その蒼い顔を信じられないと言った風に歪めて呟いた。
「な…なぜだ…。そんなバカな…!」
 その時、奴は今まではない程の苦痛で身を捩った。すると、その横に微かにもう一人の田邊の姿が浮かび上がった。
「田邊…!?」
 確かに…それはもう一人の田邊だった。
 俺が目を見開いて彼を見ていると、不意にこちらへと顔を向け、淋しげに微笑んだ。
「貴様ぁ…何故だ!」
 苦痛に喘ぐ田邊の肉体。それは悪霊そのものに与えられた苦痛のようだった。そして、淡く浮かび上がる田邊は奴を見て冷ややかに言った。
「お前は僕の肉体を奪った。だから…僕はお前の陰を奪った。」
 そう言われた奴…悪霊は目を大きく見開いた。
「バカな!人間ごときにそんな…!」
 苦痛の中、奴は驚愕…いや、恐怖した。
 悪霊…太古の霊とは、いわば肉体のない精神体。陰とは、その精神体そのものを指して言ったのだ。故に、奴はその表情を戦慄で覆ったのだ。
「人間ごとき…ですか。太古から生きていたわりには、大したことは言えないんですね。」
「この我を愚弄するか!」
「ええ、無論です。人間の精神を侮ったあなたの負けです。」
 田邊は悪霊にそう言うや、その手を以前は自分だった肉体へと伸ばした。
「ま…まさか…自分の肉体を犠牲にして私を自由にし…その間に…。」
「その通りです。だから…この大聖堂だけは立っている。ここが崩落することはありません。あなたがここにかけた呪詛は、全てあなた自身に返ります。」
「や…やめろ!」
 悪霊は田邊から少しでも逃れようとしたが、苦痛に耐えられずに床へと倒れた。
「無駄です。もう終わりの時なのだから…。」
 悪霊は尚もその手から逃れようともがき、壁際に沿って這っている。
 しかし…田邊は一体何をしようというのだ?俺には全く理解出来ないでいたが、メスターラー氏はそれに気付いた様で田邊に向かって叫んだ。
「止めるんだ!そんなことをしたら、君まで滅んでしまうじゃないか!」
 滅ぶ…?メスターラー氏は、一体何を言っているんだ…?
「田邊…?」
 俺はそう言って田邊を見ると、その顔には穏やかな笑みを見せていた。
「先生。僕は貴方が好きでした。心から尊敬し…愛していました。こんなこと言うなんて…一生無いと思ってましたけど。」
「言うな…それ以上言うな!君が戻ってきてくれるなら俺は…」
「いえ、もう無理なんです…。だから…最後まで言わせて下さい。」
 苦痛に苛まれた悪霊に手を置き、田邊は再び口を開いた。
 それはまるで…死に逝く者の告解だった。
「僕は貴方の一番でありた
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