last case.「永遠の想い」
X 5.11.AM5:37
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
で、唇に耳を近付けて何とか聞き取れる程度の声だったが、どうやら聖書を暗唱している風だった。
「しかし…何故彼だけが生き残ったんだ?他は無惨な姿を曝されてるってのに…。」
メスターラー氏は、そう不思議そうに呟いた。だが、今の段階でそれに答えられる者などいるはずもなく、俺達は生き残った彼へと視線を落とした。
その時、ふと手に何かを握り締めているのが目に入り、俺は彼の手を開いてそれを見た。見れば、それはかなり古い羊皮紙の切れ端だった。
「これは…かなり古い聖書の切れ端ですね…。恐らくは詩編だと思いますが…。」
「旧約聖書のか?だが…これは羊皮紙だろ?」
「はい。中世以前のものかと思います。ですがこの詩編…神の御名が復元されてるんですよ…。」
「…?どういうことなんだ?」
考古学を専門にしているはずだが、メスターラー氏は聖書そのものにはあまり興味ないようだ…。
現在に伝えられている聖書の一部は、原文とはかなり違う部分がある。特に、神の御名は神聖なものとされ、本文から全て外されたのだ。人の目につき、神の御名を人々がみだりに口にすることを恐れてのことだったのだ。
だが、それは一部のキリスト教徒の独断でされたことであり、神の御名を人の中へ留め続けた分派もある。
今あるカトリックとプロテスタントは、やはり神の御名を口にしない。口にしないどころか、その文字すら別の主語に置き換えている。
カトリックとプロテスタントが悪い訳ではないのだが、一体何を信仰しているのかが不透明と言わざるを得ない。まぁ、信仰と言うものは各々なのだから、一概には語れないのではあるが…。
それらを掻い摘んでメスターラー氏へと説明すると、メスターラー氏は何か思い付いたように言った。
「三世紀頃のニケア公会議での決定だな?」
「何だ…知ってるじゃないですか…。」
「いや、単に知識としてあるだけだ。聖書自体、現在の形になるまでにかなり紆余曲折したようだし、原典が失われてる今、それを全て復元することは難しい筈。そこまでして、何故神の名を?」
メスターラー氏は眉を潜め、如何にも胡散臭い宗教者の戯言に付き合っているという風に問った。
それも仕方無いと思う。彼は客観的に物事を見て、決して心を左右されない人物だ。探偵と考古学を両立させるには精神が強くなければならないし、そのお陰で彼はこちらの味方についてるのだから。
まぁ、アウグスト伯父は洗礼を受けさせたいようだが、他宗教の遺跡発掘にも携わる彼だけに、そう容易くはいかなかったようだ…。
「それは、新約と呼ばれてるギリシャ語聖書から来てます。キリスト自体、神の御名を口にするなとは語ってませんし、祈りには父の御名が神聖なものとされますようにと言ってます。そもそも、神の御名は原典では神聖四文字、いわゆるテトラグラマトン
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ