last case.「永遠の想い」
W 5.2.PM1:36
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う言われたようだ。
「あ、奏兄だ!奏兄もこっち来てたんだ。」
「来てちゃ悪ぃかよ。」
奏夜は苦笑しつつ、そう綾に言いながらお茶をテーブルへと置いた。
「あ…そう言えば、宣仁叔父が昨日くれたバターケーキあったじゃん。」
「そうだったな。」
奏夜に言われ、俺は席を立って戸棚からそれを取り出した。
そのバターケーキは日本のそれとは違い、大きめのクグロフ型で焼き上げたものだ。信徒の方の手作りだそうで、素朴ながら香り豊かなバターケーキだ。
「良い香りですね。」
綾はそう言いながらも目を輝かせていた。綾は昔から甘いものには目がない。俺も奏夜も甘いものは好きだが、綾に比べれば食べる量は断然少ない。
そんな甘党の綾なのだが、なぜか全く太らない。美桜はそれを見て地団駄を踏み、物凄く羨ましがったらしいが…。
さて、俺はバターケーキを人数分取り分けると、それを皿に移してテーブルへと置いた。無論、綾の分は多目にしてある。
「それじゃ、頂きます!」
そう言って最初に綾がそれを嬉しそうに頬張った。
そんな綾の姿を見て、何だかホッとした気持ちになった。これが本当の日常なのだ。永久に続かぬ刹那の幻であっても、俺はこんなささやかなひとときを嬉しいと感じてしまう。ただの感傷とは解っていても…。
「お、やっとるのぅ。どれ、わしも入れてもらうかの。」
そう言ってアウグスト伯父が部屋へと入り、笑いながら空いている席へと座った。そんな伯父の前に、俺は静かにお茶とバターケーキを置いた。
「やはり良い香りじゃのぅ。」
伯父はそう言うとお茶を啜った。
「こりゃ良いウバじゃ。」
「はい。これは父さんが送ってくれたものですから。」
「そうだったのぅ。あやつ、今はスリランカじゃったか。」
伯父はそう言って再びお茶を啜ってから言った。
「して、綾は何故ここへ来たんじゃ?」
不意に問われた綾は少し戸惑っていたが、直ぐにアウグスト伯父へと返した。
「京兄が大変だって分かったから、僕に出来ることはないかと思ったんです。足手纏いになるかも…と考えもしましたが、一人で考え込んでも仕方無いので、先ずは行動しようって思ったんです。」
それを聞くや、俺達は全員で溜め息を洩らした。
「綾。お前、デルフト夫妻には何て言って出てきたんだ?」
俺が言った「デルフト夫妻」とは、父と母の共通の友人で、綾が現在お世話になっている方だ。
綾がドイツで学びたいと言い出した時、その我が儘を笑って協力してくれた方で、夫妻共に大学教授だ。夫のトーマスは画家で、世界でも名の知れた人だ。彼の講義は常に満席だと聞いているが、母もそれに参加したことがあるらしい…。妻のヘレンは文学で、幾つかの古典文学の論文で賞を受けているとか。ゲーテの詩集をこよなく愛する人らしく、綾の手紙にそ
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