暁 〜小説投稿サイト〜
藤崎京之介怪異譚
last case.「永遠の想い」
T 4.13.AM10:14
[7/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
教会や聖堂も同じだ。そのため、これはキリスト教徒だけでなく、民衆自体がわざとそうしたと考えられる。祠を跡形もなく打ち壊し、その上に建造されたのだからな。どの様な資料にも、それによる抗議や反乱などの形跡は示されてはいないのも、そう考えれば辻褄は合う。」
「そうすると、ヴェッベルグ伯も精霊を信じていた…ということか?」
「そうかも知れん。少なくとも、この地の伝承は恐れていたと推測出来る。」
「でも…伯爵はカトリックだろ?そんな精霊やら伝承やらを信じるか?そもそも、伯爵家はこの土地の者じゃなかったんじゃないか?」
 奏夜が腕を組んでそう言うと、宣仁叔父は溜め息を吐いて答えた。
「ヴェッベルグ家は、この土地に古くからあった。伯爵の称号を与えられた初代トービアスは、元はただの農民だったのだ。」
 それを聞くや、奏夜は驚いて目を丸くした。
「農民が…貴族になったのか…?」
「そういうことになる。農民だったトービアスが伯爵になった理由は、ある年に起きた干ばつにある。農民とはいえ、トービアスは独学で開墾や土地利用にまつわる事柄を学んでいた様で、その干ばつの際、王にあることを直訴しに行った。」
「あること?」
 奏夜は不思議そうに言った。まぁ、不思議がるのも無理はない。農民が貴族に、それも伯爵位を与えられての厚待遇でなったのだから、それこそ何をやったのか気になるというのが本音だろう。
 宣仁叔父は少し間を置いて、そんな奏夜に続きを話した。
「隣の地方には、二つの大きな河が流れいた。干ばつにあっても、この二つの河は水量が多く、トービアスは、この河の一つからこちらへと水を引くことを提案したのだ。」
「ちょっと待って下さい…当時、水は奪い合いになる程だったはず…。なのに、わざわざ隣の地方へ掛け合って引くなんて…有り得ないんじゃないですか?王だって許可するはずが…」
「奏夜、それがトービアスに一任されたんだ。」
「え…?」
 話が見えないという風に、奏夜はポカンとした表情で宣仁叔父を見た。
 宣仁叔父は畳み掛ける様に、次へと話を進めたのだった。
 ここから話が長くなるので要約するが、当時は王と民との関係は著しく悪かった。その理由としては戦争が挙げられる。
 当時は未だ混迷の時代であり、油断すれば土地を奪われかねなかった。そこで各地から兵士を集めていたわけだが、そのお陰で小さな村や町は若い男性がいなくなり、内から弱体化してしまった。要は働き手を取られてしまったのだ。その上、税は見る間に上がり、とても生活出来る状態ではなくなったのだ。そこへ干ばつが重なり、民の不満は加速したと考えられる。
 トービアスは齢五十を越えており、兵士に徴収されることはなかったが、その有り様を静観することは出来なかったようだ。そうした経緯故に、トービアスは王へ嘆願したのだ。
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ