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藤崎京之介怪異譚
last case.「永遠の想い」
T 4.13.AM10:14
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い時は焼き払われた。病を放置したままにすれば、国全体を危うくしてしまいかねないためだが、現代から見れば残酷極まりない。
 流行り病もまた自然の摂理とも言えようが、その恐ろしい病が妻に襲いかかった伯爵は、妻を助けようと医師を呼び、自身も様々な文献を読み漁ったようだ。
 しかし、それらは結局徒労に終わり、伯爵は妻が朽ちてゆくのを見ているしかなかった。そして…伯爵自身は精神を病んでいったのだった。
 伯爵は目の前で衰えゆく妻を、こともあろうに否定したのだ。
 天然痘の末期には皮膚が瘡だらけになり、それが破けると膿が出る。伯爵夫人は治る見込みがなかったようで、医師も途中で夫人を見放し、そのまま放置されてしまったようなのだ。それが原因で夫人が死んだ…とも考えられる。
 では、なぜ伯爵は妻のために教会を建ててまで埋葬したのか?その理由は一つだと思われる。

- 恐れたから…。 -

 そう…伯爵は妻の死を恐れた。正気でなかったとはいえ、伯爵は愛する妻を見棄てたのだ。夫人は病床の中で夫を呪ったことだろう。
 詳細は伝えられてはいないが、古文書の記述から察するに夫人は…死後数週間は放置されていたようだ。
 古文書には“それはまるで地獄の亡者の如く恐ろしい姿"と描写されていて、そこから言えるのは、遺体がかなり腐敗した状態だった…と言うことだ。
 古文書には埋葬時、夫人の柩に大量の香や薬草が入れられたと記載があったが、それは腐臭を和らげるためのものだろう。葬儀もそこそこに埋葬したようで、大金を投じた市民の葬儀と皮肉って書かれていた。
「だが、その肝心の遺体が消えてるんだ。」
「消えた…だって?それじゃまさか…兄貴達、伯爵夫人の墓を暴いたのか?」
 奏夜は眉を顰めてそう問うと、宣仁叔父は隣で再び溜め息を洩らした。やはり墓を暴くのは、誰だって嫌なものだからな…。
「そうだ。あの礼拝堂の祭壇下に安置されたはずなんだが、古文書を元に調べてみたら…封が解かれてたんだ。それで開いて確かめたんだよ。」
「しかし…なぜだ?確かに伯爵夫人の墓ともなれば、それなりの装飾品も一緒に入ってるだろうけど…。だけど、あの礼拝堂は大聖堂の敷地内ぞ?」
 奏夜は理解出来ないと言った風に返してきた。そんな奏夜に、俺は苦笑混じりに答えた。
「夜になると、あそこは灯りさえない暗闇だ。まず誰も行かないからな。まぁ、封が解かれたのはかなり前の様だし、今回の件で暴かれたとは考えられない。ただ…」
 そこまて言って俺は言葉を濁した。墓を開けた時、その状態が不可思議だったのだ。それを思うと、本当に全くの無関係なのか…と考えてしまったのだ。
「ただ…何だよ。何かあったのか?」
「それがだな…遺体だけが奪われ、装飾品はそのままになっていたんだ。」
 そう俺が言うと奏夜は、さも嫌なもの
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