テーマ短編
SAO番外編 0kcal(虚構の三膳)
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もさらに階層の端っこのほうにある。必然的に、帰宅する中途で彼は大分体を冷やしたはずだ。もちろん新陳代謝の簡略されているSAOで体を冷やしたところで特に身体機能に影響は出ないが、それでも「寒い」という感覚は残る。
湯船に浸かって外側から温まった体を、内側からも温めてあげたいと思うのは、彼女のせめてもの心遣いと、後は「少しでも安らいでほしい」という、ほんの少しのわがままだ。
「……うん」
完成したクラムチャウダーの味を見て、サチはコクリとうなづく。今日もおいしい夕飯が出来た。
「リョウ、ごはん……?」
呼びかけて、気が付く。風呂から上がって暖炉の前の揺り椅子に座っていた彼は、いつの間にか静かに寝息を立てていた。
「……もう」
小さく微笑んで、サチは彼に歩み寄っていく。
普段不敵に笑みを浮かべている彼の寝顔は、驚くほど無防備だ。攻略組では彼にもいろいろな逸話があるという話はサチも聞いていたが、この寝顔を見てその話を聞かされても、誰も信じはしないだろう。
「ごはんだよ、リョウ」
「…………ん……」
小さく呼びかけても、軽く身じろぎしただけで目を覚ます気配はない。そんな様子に、なんとなく椅子の傍らに寄り添って、ひじ掛けに両腕を重ねると、頬をそこにおいて寝顔を覗き込む。
「ごはんだよ〜」
「……んん……」
頬を人差し指でつんつんとつついてみるが、反応らしい反応はなく、少し唸るだけ。どこか可愛らしくさえあるその反応に、サチはクスリと小さく笑う。
「(あぁ……好きだなぁ……)」
暖かさを増していく胸を自覚しながら、そんな風に心の奥深くが小さく呟く。
ずっとこのままでいたい、そんな風に思いながらたっぷり三十秒も彼の寝顔を堪能して、サチは彼の肩をゆすった。
「リョウ、ごはん出来たよ?」
「ん……?んあ、あ、あぁ……寝てたか、わりぃ」
「いえいえ」
クスクスと笑って、頬を掻いた彼に笑いかけて、食卓に向かう。
「今日はクラムチャウダーを作ってみました」
「お?おぉ、美味そうじゃねぇの。どれ、いただくとしますかぁ」
気を取り直したように、喜色をにじませてニヤリと笑う彼に笑いかけながら、二人は食卓へと座る。
「さて、んじゃまぁ」
「「いただきます」」
二人分の挨拶が、食卓に響いた。
これが、彼女の三膳。
彼のために作る、虚構(0kcal)の食事の記憶。
END
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