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八神家の養父切嗣
三十八話:素顔
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乗ることで逆にこちらを策にはめていたにすぎないのだ。

 相手の方が一枚も二枚も上だったと悟るがもう遅い、こちらは敗北したのだ。そう諦めた時、不意に男が若干慌てたように体を動かした。一体何がと思い目を向けてみるとそこにはフラフラと揺れているものの何とか立って男に攻撃を仕掛けるスバルの姿があった。

「まだ……諦めない」
「驚いたな。健を切ったのに動けるのか、スバル・ナカジマ。いや、神経ケーブルの強度に阻まれたのか? だが、無意味な抵抗は止めておいた方が良い。また、無意味な犠牲を出したくないのならな」

 これ以上攻撃を仕掛けてくるようならば二人を殺すと告げるように男は銃口を二人の前にチラつかせる。悔しそうに歯を食いしめるスバルであるが相変わらず反抗的に男を睨み付ける。その目には怒りと共に疑問の色があった。

「以前にあなたと会った後から考えていました。あなたがあたしに言った言葉の意味を」
「人間になりたければ理想を捨てろ、そう言ったかな。結局、君は人間になるのかい? それとも機械として生きていくのかい? 正義の味方なんて借り物の理想を抱いて」
「その前に一つ教えてください。あなたはどうしてあたしを救おうとしてくれたんですか?」

 男の瞳が驚いたように見開かれる。まさか気づくとは思っていなかったという目にスバルは自分の考えが正しかったのだと理解する。男は足元に居るティアナとキャロやまだ回収していないエリオのことなど眼中にないようにた思いつめるようにスバルだけを見つめる。その瞳の映る絶望の深遠さに呑まれないようにスバルは睨み返す。一秒、一分、はたまた一時間も分からぬ時間睨み合った後、遂に男が口を開く。

「後悔だ……全てに対する後悔だよ。正義の味方という愚かなものを目指した後悔ゆえに同じ破滅の道を行く君を許せないんだ」
「後悔…? 何で後悔なんてするんですか?」
「……知る必要はないよ。君はただ理想を捨てて人間らしく生きればいい」
「それじゃあ、答えになっていません! 知りたいんです。でないと何かを選ぶことなんてできません!」

 答えようとしない男にスバルは一歩も引きさがらないという目をして叫びかける。その瞳に男は何か眩しいものを見るように目を細める。かつて自分にもこのような時があったと思いながら息を吐く。もはや人質の二人ことなど頭にない。エリオに至ってはどうせ動けないだろうと考え確認しようともしない。そんな男にスバルは更に追い打ちをかけようとするが先に男が口を開く。

「知りたいんだな? 全てを。これから先に見る地獄を、君は見る覚悟があるんだな?」
「……はい」
「いいだろう。なら、まずは君の理想の根底にあるものを砕いてやろう。ああ、以前の時にもこうすればよかったんだ」

 どこか呆れたように冷ややかな声
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