第五話 コンタクト
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元に面影がある。
頭髪には白髪が目立ち、温厚そうな笑みからは、
当時の尖った雰囲気は微塵も感じられない。
「突然の訪問で驚かれたでしょう。でもね、圷さん。
あなたのことを忘れたことはありませんでしたよ。
遠くからあなたのことをずっと見守ってきたんです。
さてと、あなた…、今困ってるでしょ。」
「えっ?」
「ご自分の能力には気づいているでしょ?
テレポーテーション。いえ大丈夫、怖がらなくても。
私も、実はそうなんです。」
「!?」
「あなたと同じ、エスパー、サイキックなんです。」
百香はよろけるように椅子に座った。
武井も腰を下ろすと、しばらく二人は無言で見つめ合っていた。
次に口を開いたのも武井だった。
「あなた、この間、やらかしちゃったでしょ。」
「………」
「元恋人だった真鍋辰郎さん。あの人を…、殺しましたね?」
愕然として息を飲む百香。
口調は穏やかだが、いきなりの直球攻めにぐーの音も出ない。
「その気はなかったかもしれないが、結果的にはそうなった。でしょ?」
百香の息遣いがだんだん荒くなる。
「能力を制御できてないんでしょ? だから来てあげたんですよ。
あなたに、力の使い方を教えにね。」
百香はどう返答していいかわからず、ただ黙って聞いているしかなかった。
「ふふふ、今日はまあ、顔合わせということにして、また会いにきます。
そうだ、そのうち、もう一人の仲間にも会わせてあげましょうね。」
言い終えると武井は立ち上がり、「じゃあね」と言って部屋を出て行った。
一瞬遅れて後を追おうとしたが、彼の姿は既にどこにも見えなかった。
百香は息を整えながら胸を押さえた。
すべて合点がいった気がした。
そうか、武井もまた能力者だったのだ。
だからあの時、私としきりに接触を持とうとしたのだ。
彼は辰郎の一件をすべて見抜いていた。
これからどうすればいいのだ…。
彼は味方なのか、それとも…。
苦しい…。今の自分はまるで浜に打ち上げられた鯨と一緒だ。
いきなり強い重力を受けて、今にも内蔵が押しつぶされそうだ。
自力ではもう、沖に引き返すことなどできそうにない…。
百香は糸の切れた人形のようにぱたっとテーブルに突っ伏した。
翌日は雨だった。
薄暗い部屋で、百香は久しぶりにスケッチブックを手に
クロッキーに勤しんでいた。
素早い手つきで、描きなれた摩周をモデルに描いていくのだが、
どうもいまいち、いつものカンが働かない。
思うように手が動かない。まるで他人の手のようだ。何度描いてもダメだった。
百香はせっかく描いた絵をぐしゃぐしゃっと塗り潰すと、
スケッチブックをソファへ放り投げた。
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