第二十六話 困った子ですその九
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「それなんですよ。ですから」
「全く。一学期がはじまってから」
「何かっていうと御会いしますよね」
「迷惑なことにね」
じろりと阿波野君を見上げますけれどその大きなこと。私より三十センチ近くは大きいです。その大きさが羨ましかったりしますけれど口には出しません。
「全く。何かっていうと」
「それで先輩」
私に構わずに声をかけてきました。
「どうするんですか?これから」
「これからって?」
「ですから。行くんですよね」
どうも彼のペースで話が進んでいきます。
「用事に」
「ええ、そうだけれど」
これについては私も反論がありませんでした。
「今からね」
「力使う仕事ですか?」
「病院へのお見舞いなの」
天理教にはよろづ相談所という場所があります。物凄く大きな病院で今私の教会の信者さんの方が入院されています。それで私は時々お見舞いに行っているのです。
「今からね」
「だったらお見舞いの品を買わないといけませんね」
「それはもう用意してもらっているの」
こう阿波野君に返しました。
「詰所にね」
「ああ、もう用意してもらってるんですか」
「お父さんが頼んでおいてくれたのよ」
「お父さんって?」
「だから。私のお父さん」
このことを阿波野君に言いました。
「私のお父さん教会長だから」
「そういえば先輩って教会の娘さんでしたね」
天理高校には多いですけれど阿波野君にとってはかなり新鮮な様子です。それを見ていると私まで新鮮な気持ちになってしまいます。
「神戸の方の」
「ええ、そうよ」
「教会の娘さんかあ」
「それがどうかしたの?」
「いえ、ちょっとですね」
急に態度が変わったみたいな感じになりました。
「何かはじめてなんですよ」
「はじめてって?」
今一つこの子の言っていることがわかりませんでした。何が何かなって感じで。
「何が?」
「だから。教会とかそういうの今まで全然縁がなかったんですよ」
「そうだったの」
「はい、もう全然」
普通の家の子はそうだっていうのはわかっているつもりです。今までのクラスでもそういう子は沢山いましたし中学校まで普通の学校だったんで友達は皆そうでしたし。天理高校という学校はこうしたことを考えるとかなり特殊な学校なんです。
「そんなの縁とかなかったんですよ」
「阿波野君のお家ってサラリーマンだったっけ」
「共働きで。そうですよ」
「そうよね。だったらやっぱり」
「家ではちゃんとおつとめできるようにはなっていますけれどね」
「それって結構凄いわよ」
どうもお家は信仰が確かみたいです。
「そういうのあるお家って立派じゃない」
「立派なんですか」
「そうよ。お父さんかお母さんかどちらかが信仰されてるの?」
「大叔母が一応」
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